「先祖代々からの土地を赤の他人に譲るなんて。許せない」
特に末っ子の義妹が猛反発。女性が農地にこだわっていないのにも不満を示した。
「お義姉さんは私の親の人生までも否定した」
義妹に女性は全く共感できなかったが、根底に、価値観の相違と血のつながりのない者への不信感があると気づいた。
●確信犯だった夫
相続問題はもめにもめ、その途中で女性は乳がんを発症。手術で乳房を全摘した。
「おかげで終活を意識。ワガママでも最期まで自分らしく全うしたいと思うようになりました」
血縁に頼るのでもなく、かといって孤立するのでもなく、人生を前向きに終わらせたい。模索していた時、桜葬に取り組むNPO法人と出合った。生前契約で葬儀のサポートも受けられる。何より、事情を抱えた会員の手記が、相続問題で苦しんできた女性の心をほぐしてくれた。
今、振り返ってみると、夫は「確信犯」だったと女性は思う。夫は死を意識した時点で「遺言は書かない」と言っていた。
「彼は、私と義妹が合わないのがわかっていた。先祖の土地と身内を大事にする義妹にとって、私は耐え難い人。夫婦でも自立した人間だと考えていたから。彼は私と義妹とのはざまで揺れて、結局は私が苦労するほうを選んだのです」
パートナーの意思も尊重できない。そんな夫婦であったことが女性には悲しく、つらかった。だが、墓の選択に後悔はしていない。
「こんなことがなければ夫と同じ墓に入っていたかもしれません。でも、問題は急に発生したわけではない。死後にあらわになっただけなんです」
●家制度の名残に拒否感
夫婦の間に溝はなくとも、かつての家制度の名残である「◯◯家の墓」に強い抵抗感を示す女性は少なくない。アエラネットのアンケートでも「義理の両親と一緒になるのがいや」(既婚女性、46歳)、「配偶者の実家のお墓には絶対に入りたくない。遠方で住んだこともないし、数えるほどしか訪れたこともない」(既婚女性、51歳)などの回答が目立った。