松谷化学工業研究所長 大隈一裕さん(63)
難消化性デキストリンの「生みの親」。「アジア市場はすぐに日本を抜く規模になると思います」(撮影/編集部・鳴澤大)
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 大量生産、大量消費に背を向け、勝負する企業がある。ほかにはマネできない技術で、商機を見出している。

 経済が成長するほど、増える病気がある。糖尿病や高血圧といった生活習慣病だ。高齢化が進めば、もっと深刻になる。そういう意味では、日本は生活習慣病の「先進国」といえるだろう。そこに商機を見いだすのが、1919年創業のデンプン加工品メーカー、松谷化学工業(兵庫県伊丹市)だ。

 作っているのは、糖類と脂質の吸収を遅らせるトウモロコシ由来の食物繊維「難消化性デキストリン」だ。これが近年、引っ張りだこ。「お蔵入りしていた物質だった」(大隈一裕研究所長)が、ダイエットには欠かせない存在になったのだ。

 健康飲料などの原料として使われ、昨年度の生産量は約3万トン。半分は国内向けだが、米国にも1万トンを販売している。昨年からは米マクドナルドが、バンズの原料の一つとして採用している。米国では、後発の現地企業とも競い合うが、それでも販売量は年5%のペースで増えている。将来的に市場として有望だとみているのは、食の欧米化が進むアジアだ。

次の製品開発にも余念がない。香川大学などが開発し、松谷化学工業が昨年から量産している「希少糖」だ。

 血糖値の上昇はなく、脂肪にもならない。従来の砂糖、液糖、人工甘味料の弱点を克服した「夢の糖」。大隈さんは言う。

「これは糖の世界にイノベーションを起こします。飲料の糖分ならば100%代替可能です」

 2015年夏には、米国で希少糖を使った飲料が発売される予定だ。

AERA 2014年11月10日号より抜粋

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