「左ピッチャーの野口(裕斗)投手を想定して練習していた。(右投げの遠藤投手が先発して)まず、そこからちょっとチームに動揺もあったんじゃないかな。最後の一本が出なかった、打線のつながりを切られてしまったというところが、相手投手がほんまに一枚も二枚も上手だったんじゃないかなと思います。右、左、そこの違いは大きな差が出た」(有馬)

 3番・住谷は昨夏の第100回大会(4試合)で、13打数10安打、打率7割6分9厘の大会記録を打ち立てた好打者。今夏の滋賀大会(5試合)も18打数10安打のチーム最高打率5割5分6厘をマークし、チームを引っ張ってきた存在だ。

 だが、この日は一回から3打席連続凡退。八回2死一、二塁の好機に、代わった左腕・野口から、ようやく左前安打を放った。

「相手のピッチャーが上回りました。ずっと低めを突かれた。変化球も、低めのストライクからボールになる球。対応できずに終わった感じです」

 滋賀大会からプレッシャーを感じながらも、自らの大会記録を超えようと臨んだ夏だった。

甲子園ではあまりプレッシャーなく、自分は楽しくできました。(劣勢でも)ベンチも行け、攻めろ、とずっと言ってて暗くなかった。林もすごくがんばってて、みんな楽しくやってました。この中で最後、楽しく野球できてよかった。悔いはないです」

 エース・林は118球で完投した。味方の失策が止まらず失点6となったが、被安打6、与四死球1で、自責点はわずかに1だった。

 有馬は、こうたたえた。

「林はよく投げてくれました。今日は本当によかったと思いますよ。(これまで)ほんまにあまりピリッとしない場面が多かったんですけど、大会の初戦にベストコンディションで来て、今年最高のピッチングしてくれたと思います」

 そして続けた。

「それに答えられなかったバックが、やっぱり林に申し訳ない。そういう気持ちですね」

 昨夏は準々決勝で金足農(秋田)の逆転サヨナラ2点スクイズに敗れた。劇的なシーンとともに、マウンドでぼうぜんとする林、本塁上に突っ伏したまま起き上がれない有馬の姿が、多くの人々の脳裏に焼き付いた。

 あれから1年。味方の援護なく敗れた林は、インタビュールームで涙に暮れた。その手に握られた帽子のツバには、「笑顔」「日本一のバッテリー」と書かれていた。

「最後まで一人で投げ抜くことができましたし、有馬を信じてこの1年間ずっとやれてきました。この試合も有馬を信じて最後まで投げれたので、この一年間やってきてよかったなと思いました。有馬がいなかったら今の自分はいないんで、有馬にすごく感謝しています」(本誌・緒方麦)

※週刊朝日オンライン限定記事

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