日本には7万ほどの寺院があるが、どこも運営は大変だ。人口減少で檀家が少なくなる一方で、歴史ある木造寺院の修繕・維持費の負担が大きい。昨今の大型台風で被害を受けたところは、修繕費捻出に苦労している。仁和寺も昨今の台風で被害を受けるなど、松林庵の宿泊料は一部を建物修繕や積み立てに充てる。
仁和寺には松林庵だけでなく、一般人が利用できる御室会館という宿坊もある。地上2階、地下1階建てで和室12室、大広間があり、66人の宿泊が可能、大小の浴場があり、トイレは各階共同。1泊の料金は素泊まり6200円、2食付き1万1千円(税込み)となっている。年間6千~8千人が宿泊し、修学旅行など学生の利用も多いという。
宿泊可能な寺院・神社の検索・予約サイト「テラハク」を運営する和空の和栗隆史常務は、旅館やホテルと違った宿坊の魅力についてこう話す。
「旅館は機会で、そこから出かけて出会う。宿坊はいること自体が出会い。ホストがいて、お寺との会話がある。仁和寺の松林庵の宿泊ならお寺のトップクラスが出てくる」
さらに、寺院は美術館のようなところで、隅々まで美術館にあるようなものに囲まれ、そこに泊まるのはルーブル美術館に泊まるようなものと和栗氏はいう。
一方、大津市の長等山園城寺(三井寺)などは山の中にあり、森の中の空間を感じ、自然と一体になれるという。テラハクによると、三井寺の妙厳院の一棟貸しプランで、2人で1泊朝食付き30万円。1泊2食付きの2人プラン34万円(税込み)などとなっている。
宿坊への宿泊は日本人だけでなく、外国人にも広がる。日本文化や精進料理などを体験できると口コミなどで広がっているという。
一般の人向けの宿坊の宿泊プランは旅行会社でも取り扱いが増えている。JTBは消防法など「エースJTB赤パンフレット」の基準を満たしたものを掲載。宿坊というよりも旅館に近いという。赤パンフレットの利用者層は40~50代以上で、宿坊利用も同じ年齢層とみている。海外からの旅行者はカップルなど2~3人のグループが多く、年齢層も40代以上が主流。高野山の福智院などへの申し込みが多いという。
宿坊は「おもてなし」の精神から、旅館やホテル並みに居心地良く改修されたものも増えている。一方、一般的な宿坊では受け入れ態勢に昔ながらのところも少なくなく、トイレが共同、内鍵のみの宿坊もある。トイレが和式のみか、洗浄便座付きかなども、事前確認して利用したい。(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2019年3月22日号