社寺は参拝者や修行僧などを迎え泊めてきたが、最近は旅館やホテルのような宿泊施設を整え、「宿坊」として一般客を受け入れるところもある。その宿坊が、伝統的な日本や仏教文化なども体験できる場として、国内外の旅行者の間で静かなブームになっている。
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日本に伝わる最古の仏像とされる一光三尊阿弥陀如来を本尊とするのは長野市の善光寺。1400年にわたり民衆の心のよりどころとなってきた。寺に39ある宿坊の一つ、淵之坊に2年ほど前、夫婦で泊まったのは滋賀県在住で当時20代後半だった男性技術者。いつものように楽天トラベルで宿を探して見つけ、おもしろそうと予約した。
「部屋に通され、きれいすぎることに驚いた。夜の精進料理はご飯と梅干しぐらいと思っていたのが、品数が多く豪華で、シンプルな薄味でも出汁のうまみが素材の味を引き立てて天に召されるおいしさ。お風呂もきれいで広く、他のお客さんも少なかったので泳いでしまった。シャンプーも質が高いもので、お茶も粉末でなく茶葉で置かれていた」
翌朝は僧侶が毎朝読経する「お朝事(あさじ)」に内陣券500円で参加。滞在を振り返り、旅館のように行き届き、質の高いおもてなしに驚いたという。
善光寺の淵之坊は、楽天トラベルで2017年の全国宿坊ランキングで1位。現在の楽天トラベルのサイトによると、宿坊体験・特別精進料理プランの1泊2食付きで、2人利用時の1人分が1万2千~1万3千円(税抜き)となっている。
1200年ほど前に唐で学び帰国した空海(弘法大師)が真言密教の道場を開いたのが高野山。高野山全体が境内とされる金剛峯寺は52の宿坊がある。そのうちの宝城院に1年ほど前に宿泊したのが40代の上原千友さん。東京の飲食店で食べる精進料理から想像し、食事にあまり期待していなかったが、初めての宿坊体験が認識を一変させた。
「予想以上にお料理がおいしかった。創作料理で10品ぐらいあり、手作りの味がした。自然のなかで自分を見つめ直す環境もすばらしかった」