年137万人が亡くなる大相続時代。遺言をうまく活用する知恵は、シニア世代の新たな社会常識になりつつある。うまく使えば“争族”を防げ、書き方がまずいと争いの火種にもなる。家族の心を結びつける“結い言”の書き方を学び、遺族に想いをつなぐ“想続”を果たしたい。
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東京都内に住む男性(41)は、母の死後、結婚して他県にいる妹(39)と相続トラブルになった。
遺産は男性が同居していた母の自宅のほか、1千万円の預貯金。父は死去しており、男性は自らが自宅を相続し、妹に1千万円を渡す考えだった。自宅の評価額と比べると、妹の取り分はかなり少ない。ただ、理解してくれると思っていた。
妹の反応は「私の方が母の面倒を精いっぱいみてきたのに、半分以下しかもらえないのはおかしい」。男性は「最期まで自宅で介護したのは俺だ」と訴えたが、妹も「兄さんは同居で、住宅費もいらなかった。その分を含めれば、かなりの額を受け取るはず」と主張。遺産分割協議書への押印を拒否した。
「うちの子たちは仲がいいから、財産を巡るもめ事なんて起こるはずがない」
そう思い込む親は多いが、相続の現場からは違う実態が浮かぶ。「えがお相続相談室」(東京都港区)顧問で、『残される母親が安心して暮らすための手続のすべて』の共著がある行政書士の横倉肇さんは、争いに何度も接してきた。
「子どもが2人以上いて1人が親と同居している場合などは、トラブルになりやすい。財産の分け方を遺言でしっかりと残しておくべきです」と話す。
預貯金は分けやすいが、通常は1千万~2千万円あれば多い方。相続財産で多くを占めるのは土地で、全体の4割弱を占める。土地を1人で相続するとその人の取り分が多すぎる一方で、共有すると処分しにくくなる。相続人みなが困る“共憂”状態を生む。遺言なしに「家族で相談して分けて」と死に臨むと、思わぬ争いにつながることがある。
遺言は本人が手書きで書く自筆証書遺言のほか、公証役場の公証人がかかわる公正証書遺言がある。専門家を通したうえで公正証書を作成した場合、財産規模にもよるが、20万円前後かかる。ただ、信頼性が高く、遺言の9割弱を占める。