自筆証書は手軽に書けるが、自宅の仏壇やタンスに入れっぱなしで家族が気づかず、遺品回収業者が見つけるケースもある。裁判所が遺言を確認する「検認」の手続きも必要だ。

 使い勝手を改善する動きもある。来年7月から自筆証書遺言の法務局保管制度が始まり、検認が不要になる。今年1月13日からは自筆証書遺言の財産目録をパソコンなどで作ることが認められ、すべてを手書きする必要がなくなった。不動産登記事項証明書や預金通帳のコピーも添付できる。

 相続財産は土地、家屋、株式、公社債、現金、預貯金、小切手、貴金属、自動車、ゴルフ会員権など幅広い。すべて手書きは高齢者にはハードルが高かった。

 横倉さんは「パソコンなどで作った財産目録は、ページごとに署名や押印が必要ですが、作成の労力はかなり軽減されました。自筆証書遺言の保管制度も来年から始まり、遺言書を書き残そうと思う人は増えるでしょう」と話す。

 遺言は15歳以上なら、だれでも書ける。一方で、年間の作成件数でみると書いているのは死者の1割ほど。多くの人にとってなじみがないが、特にどんな人が書くと効果的だろうか。

 フジ相続税理士法人(東京都新宿区)の代表社員、税理士の高原誠さんは「80代以降で、株の売買などを今後予定しておらず、相続財産がほぼ確定している人は書くとよいでしょう。だれにどの財産を渡したいかの意思が明確なことも前提になります」と話す。

 遺言が有効なケースの典型は、子のいない夫婦。夫婦がお互いに書き合う「たすきがけ遺言」もよい。

 埼玉県の女性(80)は、子がおらず両親も他界していた。夫の死後、女性は全財産を相続できると思っていたが、疎遠だった夫の姉が突然現れ、「私は4分の1を相続する権利がある」と言いだした。確かに、法定相続だと妻4分の3、姉4分の1になる)。高原さんはこう話す。

「遺言で『財産のすべてを妻に相続させる』と書き残せばよかったのです。兄弟姉妹には遺留分がないため、夫の財産すべてを妻が相続できます」

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