作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、日本社会にはびこる「男の下駄」について。
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東京医科大学が数年にわたり女子受験生の点数を一律に減点していた。報道によれば「女子は3割以内におさえるべき」という方針で、その理由は「女性は離職する率が高いから」とのことだった。どうせ辞めちゃうのだったら、そもそも育てない、ということだ。関係者は「必要悪」だと言ったという。
このニュースを聞いたのは、友人数人と朝ご飯を食べているとき。牛乳がしっかり染みてなくて残念だわ、と文句を言いながらフレンチトーストを食べてる友人が「そうそう、このニュースが酷い」とスマホを見せてくれた。口に入れていた卵サンドの味が消えた。女性の点数に0.8、または0.9をかけて計算という生々しい証言に、周りの音が消えた。数秒おいて、私たちは一斉に怒りだした。
「来るところまできた」「実害出てる、賠償しろよ」「そもそも男に下駄履かせすぎなんだ」「女性の人生を、なんだと思ってる?」「狂ってる!!!!!」。怒りは尽きず、怒りを出せば悲しさが溢れてきて、こんな悔しさをいつまで女に強いるのかと悔しくて。そしてひとしきり怒った後に私たちは、はっきりと思う。「東医大だけじゃないよね」と。
うすうす気がついていた。いや、はっきりと聞いたこともある。医大ではなく普通の会社の「入社試験の点数だけだと女が多くなるから男女同点なら男を採る」という理屈。女は激務に耐えられないし、子ども産むし、辞めちゃうし、と。医療の現場も一般企業の現場も、ジェンダー意識は変わらない。それは男性に高い下駄を履かせて守り、女性の人生をないがしろにする。下駄の高さも「実力のうち」だと、女の声を封じながら。