東京医大の報道後、ネットでは「激務は女性には耐えられない」と「医大側にも一理ある」という声があがっているが、「だったら働き方を見直せばいい」というシンプルな反論一つで十分だ。それができない経営側の能力不足を、医師免許を目標に勉強してきた若い女性たちに負わせる発想がまかり通ってしまうことがおぞましい。だいたい、同じ職場の看護師の激務はどう考えるのだろう。「女性はすぐ辞めるから」と、看護師の男性率を調整するだろうか。

 ただ意外だったのは、医師の友人が「ずっとやってきた公然の秘密だよ。医学は激しい勢いで進歩するから、子育てなどでキャリアを中断する女性医師は復帰できない。だから東医大にも一理ある」と言ったことだった。驚いて「男性医師全員が医学の進歩についていってるとは思えないけど、っていうか先日もやぶ医者に遭遇したわよ! 治療しながらも寝てるか起きてるかわかんない爺先生だったよ!」と叫ぶと、はっとしたように「ああ、医療現場の人間が、そういう理屈で現実を理解しようとしてただけだね」と言ってくれた。

 内側にいればいるほど、内側の理屈でうまれる暴力も差別も狂も見えにくくなるのかもしれない。日本社会の「男女平等」は、男の下駄と女の沈黙で成立している。もう黙りたくない。

週刊朝日  2018年8月17-24日合併号

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