そう、大センセイが暗く悩み多き青春時代を送っていた八〇年代、ソニーのウォークマンという機械が大流行したのだ。若者たちは街の中だろうと電車の中だろうと、ところかまわず両耳にイヤホンを突っ込んで、音楽に浸るようになった。
そして、周囲からの信号を遮断して個の世界に没入する若者たちは、上の世代から「新人類」と呼ばれるようになったのだった。
そんな元新人類である大センセイに、スマホの危険性を指摘する資格などないのではないか。かつての自分も十分に危険な行為をしていたのであり、しかも、上の世代から危険性を指摘されれば、
「うっせーなー」
と反発していたのだ。
だが、しかし、にもかかわらず、スマホは、いや、両耳にイヤホンを突っ込んでところかまわず音楽に浸る行為は、危険だと言わざるを得ない。
あれは、大センセイがまだ二〇代だった頃のこと、ふと海が見たくなって、三浦半島に出かけたのだった。ウォークマンにはサザンオールスターズのカセットテープを入れていた。