
第11回朝日杯将棋オープン戦で優勝し、史上最年少で六段に昇段した中学生の天才棋士、藤井聡太(15)。昇段後最初の対局でも勝利を収め、「目指すところは変わらないので、(昇段は)特に意識することなくできた」と自然体を貫いた。
加藤一二三、羽生善治竜王ら天才と呼ばれる棋士は少なくない。だが、日本将棋連盟が発行する専門誌「将棋世界」元編集長の大崎善生さんは「藤井六段は新たな天才」と激賞する。
「羽生さんが出てきたころは、寄らば斬るというようなきらめきと天才性がありましたが、藤井六段は朴訥(ぼくとつ)として、天才っぽく見えない天才ですね」
前述の朝日杯準決勝ではその羽生竜王を破った。脳科学者の茂木健一郎さんも藤井六段を「デジタルネイティブ世代によるニュータイプの天才」と称する。
「天才は才能だけではなく、環境との出会いで生まれます。情報環境の変化によってビッグデータを駆使し、情報処理の速さが自然と求められるようになりました。たとえばコンピューターゲームで求められる集中力は読書よりも強烈。藤井六段は上の世代よりも集中度や直感力が深いと考えられます」(茂木さん)
藤井六段がすごいのは盤上だけではない。朝日杯ではスポンサーに気遣って、持参したペットボトルのラベルを外すべきか尋ね、周囲を驚かせた。
「若くして強くなる棋士は老成しているというか、盤面だけではなく周囲をよく観察していますし、気配りができる人が多い。藤井六段はそれが指し手にも表れ、若い割に手厚く慌てることがない」(大崎さん)
茂木さんもこう言う。
「対局しているときの周りへの気遣いや適切なコメントを見ると、広い範囲が同時に見えるタイプなのだと推察します。いろんな手を広く見渡して勝負に挑むことは、脳科学で言うマインドフルネス(多くのものを並列して見渡し注意を向ける)の状態に近い」
実力に加え、大人顔負けの気配り。“老成”した藤井六段から目が離せない。(本誌・秦 正理)
※週刊朝日 2018年3月9日号