「腕の筋トレだけをしても、重いものが持ち上げられないのと同じです。体幹に力が入らなければ効果は得られません。嚥下は全身を使う機能です。肋骨の間の筋肉や太ももの裏の筋肉を伸ばしてあげることが、誤嚥予防につながります」
高齢者は姿勢が悪くなることで、肺が窮屈になり、呼吸が弱くなる。そうなると、むせたときなどにせき込むことができず、誤嚥につながるのだ。
腕組みをして、肘を上下させることで脇腹の筋肉が伸ばされ、力強い呼吸ができるようになる。
そして、太ももの裏の筋肉を伸ばすことは、食事中の姿勢に関わる。
「高齢になると太ももの筋肉が硬くなり、関節がきつくなって、座り方が浅くなります。背中が丸くなるので、食べ物がのみ込みにくくなるんです。太ももの裏を伸ばし、さらにほぐすことで、自然と背筋を伸ばして深く座ることができます」(戸原准教授)
座りながら膝を伸ばして足を上げるストレッチを、左右それぞれに行えば筋肉が伸びていく。
「何歳になっても、口からおいしく食事をとりたいという方は多いでしょう。食べる機能に関わる筋肉を、意識して動かしてほしいですね」(同)
体を動かすトレーニングはもちろんだが、ほかにも食事による予防法もあると解説するのは、呼吸器専門医で池袋大谷クリニック院長の大谷義夫医師。
「葉酸の摂取が嚥下機能の改善に効果的です。レバーに豊富に含まれていますが、毎日食べるのは現実的ではないので、その場合はブロッコリーやスーパースプラウトなど野菜を摂取することで補いましょう」
また、カプサイシンが嚥下機能の改善に効果があるという研究報告もあるそうだ。
「カプサイシンはトウガラシに含まれる辛味成分。嚥下機能を左右する体内物質を放出させ、改善するといわれています。ほかにもブラックペッパーのアロマで嚥下回数を促進したという報告もあります。のみ込む力を上げることができるので、試してみてもいいかもしれません」(大谷医師)
年末年始を間近に控え、大勢で食卓を囲む機会も増えることだろう。だが、そこで食べ物や飲み物を遠慮するのも寂しいものだ。食事内容に十分気をつけながら、歯磨きをこまめにし、のどや舌、それに歯を鍛え、全身運動も加えることで、病知らずの「口」になる習慣を身につけましょう。(本誌・秦正理)
※週刊朝日 2017年12月1日号より抜粋