年を取るにつれてのみ込む(嚥下)力が衰えることで、正月の餅を詰まらせてしまうなど、さまざまなトラブルをもたらす。嚥下機能を取り戻す手立てはないのか。
嚥下機能が衰えるとは、のど仏をつっている筋肉「舌骨上筋」が弱っているということだ。のど仏の位置が下がっている高齢男性を見かけるのは、加齢とともにこの筋力が低下しているからだ。
「食事がゼリーばかりの重度の嚥下障害の場合はすぐにリハビリの効果を出すのは難しいことが多いのですが、『最近食事中にむせることが増えてきたな』と気になってきたなら、ちょっとした運動で嚥下機能を取り戻すことができます」
東京医科歯科大学大学院高齢者歯科学分野の戸原玄准教授は訪問診療の際、患者に“開口訓練”をさせる。
10秒間大きく口を開け、その状態を保つ。5回1セットで1日に2セットが目安だ。その際に注意すべきなのは、あごが外れない程度に本気で口を開けること。戸原准教授の父親も80代を目前に控え、食事の最中にむせるようになったが、この訓練によって改善したそうだ。
「毎日訓練することで、早ければ2週間、そうでなくても1カ月ほど続けると機能は改善されると思います。毎日することが難しければ、1週間に1回でもいいので、まずは訓練を習慣にしてほしいですね」(戸原准教授)
また、嚥下機能に影響するのは舌骨上筋だけではない。ものをのみ込むには舌も重要な役割を果たしているのだ。食べ物を口の中でのみ込みやすくまとめるのが舌だ。だからこそ舌を鍛える運動も効果的だ。
舌を思い切り上下左右に出して、10秒間その状態を保つ。これも1日2セットを目標にしたい。戸原准教授はそのほかにも意外なトレーニング方法を紹介してくれた。
「咽頭と呼ばれるのどの空間の周囲にある筋肉は簡単に言えば、食べ物が食道以外に入らないようにのどの空間を狭める筋肉です。高い音を出すのは空間を狭めるトレーニングになるので、カラオケなどで高音で歌うことも効果があります」
そして、戸原准教授が加えて勧めるのが口元以外の、脇腹と太ももの裏のトレーニング。一見、誤嚥とは関係がなさそうだが、嚥下機能に大きく関わっているという。