「最近の住宅では気密性や断熱性が重視されていますが、地方に多くみられる木造の広くて古い家は、部分的にしか暖められません。脱衣室や浴室も寒い傾向にあり、入浴中の事故が起こりやすい環境です」

 鈴木教授が行った都道府県別の調査によると、入浴中の死亡率が高いのは北陸地方や東北地方という大まかな傾向が見て取れる。注目すべきは、沖縄県と北海道で発生率が低いことだ。

「沖縄は冬も暖かいうえ、そもそも浴槽につかる習慣があまりありません。北海道は外気温が低くても全館暖房が発達しており、浴室や脱衣室を含め家の中は暖かく保たれています。このため、比較的安全に入浴できると考えられます」

 重要なのは外気温ではなく、室温なのである。

 なかには、「入浴中にフラつくようなことがあったら、すぐに出るから大丈夫」と考える人がいるかもしれないが、その考えは改めたほうが良さそうだ。高橋医師によると意識を失うときは突然で、自分で気づけるような前兆はないとか。また、同居家族がいる人も過信は禁物だという。

「入浴中の急死では突然意識を失い、5分以内には死亡していると考えられます。たとえ家族が時々声かけしていても、それこそ1分おきに様子を見るぐらいでないと防げません」(高橋医師)

 冬を迎えるこれからの時期は、入浴死が増える危険な季節だ。悲劇を防ぐにはどうしたらよいのか。

 高橋医師はまず、脱衣室と浴室を十分に暖めることを勧める。備え付けの暖房がなくても、脱衣室やトイレでの使用も意識した小型で電気式のセラミックファンヒーターやパネルヒーターといった暖房器具も数多く販売されている。入浴前にシャワーからお湯を数分出しておくと、蒸気で室温を上げることもできる。

 さらに、湯温を41度以下のぬるめに設定し、長湯は控えよう。寒い時期は熱いお風呂に入りたいという人は多いだろうが、命には代えられない。給湯器の中には、設定温度より2度低くお湯を張り、入浴を検知してからゆっくり沸き上げて体への負担を抑える機能を持つものもある。

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