入浴前に裸になると、寒さで血管が収縮し、血圧が上昇する。その後、熱い浴槽に入ると、さらに急上昇する。ところが、体が温まってくると、今度は血管が拡張して、上がった血圧が急激に下がってくるのだ。短時間で血圧が急変動すると、脳の血液循環が悪くなり、意識障害に陥ることが考えられるという。

「血圧が急変動しても、安全な環境下なら一時的な意識障害ですむ可能性もあるでしょう。しかし、お湯を張った浴槽だとそのまま溺れてしまうことになります。あるいは、意識を失ったままでお湯につかり続けることで体温が上がり、熱中症と同じ高体温症で亡くなるケースも考えられます」(同)

 入浴時に介助を要する人ならば、万一意識を失ってもすぐに対応してもらえるため、事故はほぼ起こらない。一人で入浴できる元気なお年寄りが犠牲になりやすいのが、ヒートショックの特徴だという。

 高橋医師の研究チームが、高齢者施設で暮らす103人の高齢者を対象に、入浴前後の血圧変化を調査したデータがある。

 血圧変化の平均値を見ると、浴槽に入った直後の最も血圧が高いときの平均の最高血圧が166、5分間浴槽につかって出たときの最も低いタイミングで135と、短い時間で血圧は31も変動している。これは人によっては意識障害に陥る可能性がある数値であり、中には急激に変動した人もいたという。

「調査を実施した施設は、脱衣室が暖かく保たれていて、湯温も41度と適温でした。比較的安全な環境にあったのにこれだけの血圧変動が見られたのですから、一般家庭で脱衣室が寒かったり、お風呂が熱かったりすると、血圧の変動はさらに激しくなることも考えられます」(同)

 特に、浴槽と外気温の差が大きくなる冬場は、入浴死が最も増える危険な季節だ。

 リンナイの調査によると、平均入浴時間は約15分、人によって様々な習慣があるようだ。ただ、長く入りすぎると、血圧上昇やのぼせの危険性も高まる。

 また、お年寄りの入浴死には、地域差もみられるという。高齢者の住環境に詳しい日本大学工学部の鈴木晃教授はこう解説する。

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