世界で活躍されるジャーナリストで、スパイやスパイ小説を題材にした『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』(マガジンハウス)を書いた手嶋龍一さん。お話はスケールが大きく、次から次へと“インテリジェンス”があふれてきます。作家の林真理子さんは対談で、スパイの特徴である“誰もが人好きする魅力的な人”だと手島さんを評します。
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林:この本にもオックスフォードやケンブリッジを出たイギリスのスパイが出てきますが、超エリートの彼らが、なんでこういう世界にハマっていくんですか。
手嶋:パブリックスクール(日本の中高にあたるイギリスの名門私立校)は、類いまれなスパイ養成学校なんです。エリートの子どもは先生に嘘をついて取り入り、仲間の間では陰湿ないじめが横行する世界です。そうした環境を生き抜き、本心を決して明かさず、巧みに嘘をつく快感を覚えた子どもは、幼くしてスパイの素養を身につけている。
林:なるほど。ところで“その筋の人”というのは、どうやってわかるんですか。
手嶋:愛読者という女性から、「私はけやき坂の喫茶店でイギリス人の男と時々会うのだが、ひょっとして、その筋のプロフェッショナルなのかと心配です。見分け方を教えて」という手紙をもらいました。
林:ちゃんとお返事を書いてあげたんですか。
手嶋:ええ、「あなたが怪しいと思えば、大丈夫、普通の人です。でも普通に見えたら要注意」と書いたら、「そんな答えでは満足できない。私をバカにしないで!」とご立腹でした(笑)。見分け方のコツは背広とお答えしました。「英国のその筋の紳士は上着を脱がない。だから上着の内側にネームやテーラー名が入ってなければ、要注意」と返事を出してようやく許してもらいました。彼らはとても聞き上手です。それはテクニックを超えています。
林:手嶋さんはこの雰囲気、語学力、いつごろに身につけられたんですか。北海道のご出身ですよね。