林:トランプさんの英語は、私でも聞き取れるくらいわかりやすいです。
手嶋:ブッシュ大統領とはちょっと違いますが、非常に下品にして、シンプルですよね。
林:手嶋さんといえば、優れた英語の使い手で、世界中の政治家、要人とツーカーというイメージがありましたから、意外ですよ。
手嶋:われわれの仕事は言葉の問題を超えています。英国秘密情報部員のように、相手の懐にスッと入っていく術こそ肝要です。今は何かというと条件反射的にネットで検索しますが、検索サイトには間違いやいかがわしい情報が溢れている。単なる雑多な情報は、インフォメーションに過ぎません。僕の新刊では、人間力を使って情報を集め、そこから宝石のようなインテリジェンスを紡ぎ出す大切さを若い方々に伝えられたらと思いました。
林:魅力的じゃなければ、誰も話なんてしてくれませんもんね。やっぱりスパイって、みんなイケメンなんですか。
手嶋:イケメンじゃないスパイもたくさんいますが、誰もが人好きがする魅力的な人々で、すごく感じがいい。女性にモテないスパイなど会ったことがありません。大切なのはヒューマン・インテリジェンスです。林さんはネットがあまりお好きでないと伺いましたが、ぜひそうあり続けていただきたい。
林:このあいだ新聞に出ていましたが、私たちがグーグルで場所を探したり調べたりしたものは、全部記録されているかもしれないんですね。
手嶋:ですから僕は意図的に、ガラケーとボロボロの電話帳を持ち歩いています。サイバースペースと断絶していますから、その筋の人たちは何となく安心するんです。
林:でも、人と会って直接情報を得るのって、やっぱり時間がかかりますよね。
手嶋:最少の努力で最大の結果を得るために、信頼できるごく少数の情報源を持つに限ります。僕は87年にワシントンに行って4年目に一度帰ってきて、ワシントンでの経験をもとに『たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て―』というノンフィクションを書いた。それがハーバード大学の国際問題研究所の目に留まり、94年にフェローとして招聘されました。「10年間退職しないならば」という条件でNHKは行かせてくれました。他のメンバーにはディエゴ・ヒダルゴというスペイン国王の親友で大富豪、コロンビアの国防大臣、ベネズエラの経済大臣、スリランカの大統領補佐官などがいて、本当に夢のような仲間たちでした。
※週刊朝日 2017年4月7日号より抜粋
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