アブラの摂りすぎはエネルギー過多につながり、肥満など健康を損ねる原因になる。これは周知の事実だが、アブラそのものの害が多くの人に知られることになったのは、「トランス脂肪酸」がきっかけではないだろうか。
トランス脂肪酸は油脂に水素添加という加工を施し、液体を固体に変えたアブラ。マーガリンやファットスプレッド、ショートニングという名前で、パンやケーキ、スナック菓子などの材料として使われている。
農林水産省によると、トランス脂肪酸は食品から摂る必要のないアブラで、摂りすぎによる健康への悪影響のほうが懸念されている。例えば、血液中にLDLコレステロールが増え、善玉のHDLコレステロールが減ることで、心臓病のリスクを高めるとされている。
2003年には国際機関の専門家会合が、トランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満にするように勧告。日本の成人に当てはめると、1日当たり2グラム未満が目標となる。
15年、アメリカの食品医薬品局(FDA)は、3年以内にトランス脂肪酸が発生する処理をしたアブラについて「安全な食品」としての認定対象から除外すると発表しているが、農水省は調査研究で日本人の1日当たりのトランス脂肪酸の摂取量の平均は、0.92~0.96グラムと推定。国内で「健康的な食生活」を送っていれば、トランス脂肪酸摂取による心臓病のリスクが高まる危険性は低いとしている。
パンなどにトランス脂肪酸が含まれているかどうかは、パッケージに書かれている原材料名をチェックすれば一目瞭然。マーガリンやショートニングなどの名前があれば、トランス脂肪酸含有食品と考えられる。
「あまり知られていませんが、ショートニングなどのなかにはジヒドロビタミンK1という成分も含まれていて、それらが動脈硬化や腎臓病、骨粗しょう症などの発症を促進することがわかってきています」(奥山治美名古屋市立大学名誉教授)
いずれにしても控えたほうがよいということだろう。
さらには、トランス脂肪酸の代わりに用いられるようになった、新しいアブラの健康への悪影響も報告されている。そのアブラとは、「パーム油」。アブラヤシの実の果肉部分を原材料とした半固形の植物油で、ラードなどと同じ飽和脂肪酸が多く含まれる。