今回の計画にあたっては、とりあえずバンコク(クルンテープ駅)からスンガイコーロクまでの1等寝台の乗車券を確保しておいたものの、出発までWEBなどでこまめに現地情報をチェックし、危険な徴候が見られた場合には別ルートに差し換えることを考えていた。

 幸いにと言おうか、表立った動きは見られず、予定どおりスンガイコーロクを目指しているのだが、こうして兵士のチェックがあるのを目の当たりにすると、油断はできないのだと気を引き締めざるを得ない。しかし、憂慮すべきトラブルもなく、11時20分にスンガイコーロク駅に辿り着くことができた。

 スンガイコーロクはマレーシアとの交易の地であるとともに、マレーシアから羽を伸ばしに来る男性陣も少なくないとか。道路向かいに広がる市場にはそうしてハメを外す男たちのための店が待ち受け、それは同時にテロの標的になることもあるという。

 今日は国境を越えたのち、コタバルに宿を取るだけの行程で時間はある。そんな猥雑な街を見物してみたいとの思いもよぎるが、万が一の事態を考えここは好奇心を押さえることにした。

 駅前から広い歩道のある幹線道を15分ほど歩くと国境ポイント。簡単な手続きで無事にマレーシアへと足を踏み入れた。

■見慣れた列車が!日本から譲渡された寝台車が眠る駅
           
「トゥンパッですよ」

「ここが? ステーション?」

「ええ」

 コタバルから乗った路線バスは、商店街の外れで私を降ろした。「レイルウェイステーション」と伝えておいたものの、降りて周囲を見回しても駅らしきものはない。

 こんなところも自由旅の面白さで、「まだ時間の余裕はあるし、散歩でもしていればそのうちに着くだろう」とトゥンパッの街を歩く。

 駅は市街地を抜けた300メートルほど先にあった。JBセントラルまでの寝台乗車券は事前にマレー王立鉄道(KTM)の公式WEBサイトで購入してある。タイ国鉄もそうだが、こんな異国の鉄道の乗車券がいまや自宅のパソコンでも予約・購入ができるのだから、時代の進歩というのは面白い。

 トゥンパッ駅を発車する列車は1日4本。駅舎を伴う立派な1面ホームと平台だけのホームが1面あるきりだが、構内には多数の側線が並び、終着駅らしい貫禄がある。その一隅に見なれたような車両があるなと思ったら、かつてJRで活躍していた寝台車ではないか。

 乗った覚えのある1人用B個室(ソロ)車の姿もあるが、朽ち具合から察すると現役で使われているかどうかは疑わしい。だが、こんな最果てといってもいい異国の駅で再会するとは……。

 列車は18時ジャストにトゥンパッを発車(取材時のダイヤ/2020年2月現在は18時50分発)。

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列車の不思議な揺れはいままでにない乗り心地