今回乗車したトゥンパッ発JBセントラル行き27列車(撮影/植村 誠)
今回乗車したトゥンパッ発JBセントラル行き27列車(撮影/植村 誠)
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JBセントラル駅と連絡通路で結ばれているショッピングモール(撮影/植村 誠)
JBセントラル駅と連絡通路で結ばれているショッピングモール(撮影/植村 誠)
トゥンパッ発JBセントラル行き27列車内にある食堂車(撮影/植村 誠)
トゥンパッ発JBセントラル行き27列車内にある食堂車(撮影/植村 誠)
寝台車内の上段には転落防止のベルト付(撮影/植村 誠)
寝台車内の上段には転落防止のベルト付(撮影/植村 誠)
寝台車からの車窓。アブラヤシの林の中を突き進む(撮影/植村 誠)
寝台車からの車窓。アブラヤシの林の中を突き進む(撮影/植村 誠)
トゥンパッ駅。写真は到着した普通列車(撮影/植村 誠)
トゥンパッ駅。写真は到着した普通列車(撮影/植村 誠)
27列車の座席車。冷房が効いているので、乗車の際は上着を忘れずに(撮影/植村 誠)
27列車の座席車。冷房が効いているので、乗車の際は上着を忘れずに(撮影/植村 誠)

 近年、マレーシアの鉄道は急速に近代化を遂げ、主力幹線である西海岸線(パダンブサール/バターワース~シンガポール間)で時速140キロメートル運転が実施されるなど、高速化の進展が著しい。一方で、西海岸線では寝台車も姿を消し、バンコクからシンガポールまで、寝台列車を乗り継ぐ2泊3日の鉄道旅はいまや昔語りとなりつつある。そんななか、貴重な寝台列車が1往復だけ残されている。異国の夜汽車で旅情に触れるべく、一路マレーシアを目指した。

【写真】寝台車からの車窓はこちら

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■寝台列車のルートは密林地帯!

 マレーシア唯一の寝台列車が走るのは、東海岸の町・トゥンパッとシンガポールとの国境に面するジョホールバルのターミナル駅・JBセントラルとを結ぶおよそ723キロメートル区間。途中のグマス駅を境に、トゥンパッ側が東海岸線、ジョホールバル側が西海岸線と呼ばれる路線だ。

 沿線にマレーシアの首都・クアラルンプールを擁し、プランテーションなどの開発が著しい西海岸線に対し、東海岸線は起点のトゥンパッこそ主要都市のひとつであるコタバルに近いものの、その路線名とは裏腹にマレー半島を南北方向に横断するルートは熱帯雨林が繁茂するジャングル地帯。

 道路整備が進む以前は貨客混合列車なども多数運行され輸送の要になっていたが、現在は全線を走破する旅客列車は、これから乗るJBセントラル行き27列車とその折り返しである26列車の1往復のみという閑散路線と化してしまっている。

 問題はアクセスだ。ジョホールバル側はシンガポールを玄関にすれば便利だが、悩ましいのはトゥンパッである。トゥンパッへは、日本からのエアライン直行便があるクアラルンプールからコタバルまで路線バスでおよそ7時間。コタバル空港まで空路利用としてもいいが、ともに「わざわざ……」という徒労感がなんとも面白くない。

 あれこれ検討した結果、バンコクから寝台列車でタイ・マレーシア国境ポイントがあるタイ南東端の町・スンガイコーロクへ行き、その足で27列車の始発駅であるトゥンパッを目指すことにした。当時、タイとマレーシアの鉄道全線に乗るべく渡航を重ねていたこともあり、そういう意味でも訪れたいルートではあった。国境越えは徒歩になるものの、西海岸線ルートとはまたひと味違ったバンコク発シンガポール行きの乗り継ぎ旅が楽しめるに違いない。

■テロ横行地域の物騒さと背中合わせに国境を越える

「パスポートを」

 1等個室寝台の扉がノックされたので開けてみると、軍服姿の兵士がふたり立っていた。自動小銃を携えている。

 前日の15時10分にバンコクを発った列車はすでに朝を迎えていた。タイ南部の主要都市であるハジャイ(ハートヤイ)で西海岸線とをつなぐパダンブサール行き編成を切り離し、タイ南東部の鉄路を南下している。

 実はこのエリアは、タイからの独立を主張する一部過激派によるテロが横行しており、日本の外務省からも渡航情報が発令されている要注意地帯。実際に、この列車が通るパッターニなどでは爆弾事件が伝えられることも珍しくない。

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国境を越えた異国の駅に日本で見慣れた列車が