東京五輪開幕の7月に営業運転の開始が予定される次期型東海道・山陽新幹線のN700S。外観は現役の最新車両であるN700Aとあまり変化はないようだが、改良点はどうなっているのか?「ワンランク上の乗り心地」を目指した最新車両の技術的な進化を前回の記事「 運転開始が待ち遠しい!次期型東海道新幹線N700S”空気抵抗”との闘いに大きな進化が」に引き続き解説する。
* * *
■ブレーキの制御を改良して制動距離を短縮
見えないところで進化しているN700Sは、走り装置に関しても進化し、車両性能に関してはN700Aと同等以上の性能を有している。高速で走行する新幹線車両では、ブレーキは非常に重要だ。現在の電車では通常、発電(電力回生)ブレーキを用いるが、緊急時の非常ブレーキでは発電ブレーキを使用できない恐れがあるので、機械式のディスクブレーキのみで停車させる必要がある。ディスクブレーキは走行エネルギーを摩擦による熱エネルギーに変換することで減速するが、300km/hからの非常ブレーキでは、ブレーキディスクが赤熱するほどの熱を帯びる。これほどの熱を帯びるとブレーキディスクが変形し、効きが悪くなってしまう。
そこでN700A(2013年)では、ブレーキディスクの締結方式を中央締結式に変更して、熱変形の影響を少なくしている。N700Sではさらに滑走制御をきめ細かく行うことで、N700Aより約5%の制動距離の短縮を実現した。これは地震発生時などの緊急時に非常に有効である。
制御方法こそ300系(1992年)以来の三相かご形誘導電動機を採用しているが、N700Aまでは電動機の固定子が4極だったものを6極に変更している。6極とすることで主電動機の小型化が実現できるが、従来のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を使用した主転換器(制御装置)では損失が大きく、6極の主電動機を制御するのは困難だった。
そこでN700Sでは心臓部にあたる制御素子の材質を、シリコンからSiC(シリコンカーバイド)に変更した。SiCは高温でも動作が可能で低損失であることから、6極主電動機の制御が可能となっている。高温状態でも動作可能なことから冷却装置を簡略化でき、N700Aでも採用されていた強制冷却ファンのない走行風冷却方式を採用した主転換器よりも、前後方向の寸法で100mm、重量は150kgの小型軽量化を実現している。