乗り心地向上に対しては、N700Sでは全車にフルアクティブ制振制御装置が採用されている。これはN700Aなどに採用されているセミアクティブ制振制御装置に、油圧を発生させる電動機とポンプを装備したものである。制御装置自体はセミアクティブ制振制御装置と同じであり、電源喪失や電動機、ポンプ故障などの際はセミアクティブ制振制御装置として機能するためフェイルセーフとなっている。
■非常時に自走できるバッテリーを搭載
車両全体の軽量化においては、大容量リチウムイオンバッテリーの採用が特筆される。従来使用されていた鉛蓄電池に対して70%もの軽量化と、50%の体積削減が実現した。さらにリチウムイオンバッテリーを増設することで、停電時でも一部の洗面所は使用可能となった。
また、バッテリーによる自力走行も可能となり、異常時に駅間で停車した列車を最寄り駅まで移動させ、旅客の安全な待避が可能となっている。このように高速列車で自力走行用のバッテリーを搭載したのはN700Sが世界最初である。2018(平成30)年9月に行われた試験走行では2両にバッテリーを増設、浜松工場内で約5km/hの自力走行に成功した。さらに4両にバッテリーを増設し、2019(平成31)年7月10日の報道公開では、30km/hでの自力走行が行われている。量産車では8両にバッテリーの増設を行うことから、さらに自力走行距離が伸びると思われる。
車体構造や台車などの走り装置の改良は、高速走行に備えると共に、乗り心地の改善にも大きく寄与している。
■違和感のない天井パネルと防犯カメラの設置
客室内においては、グリーン車では「ゆとりある空間と個別間」、普通車においては「機能的で快適な空間」のコンセプトの元にデザインされている。客室への入口となるデッキは緩やかな曲面を持った壁面と共に、照明との相乗効果で遠近感の錯覚を利用し、奥行きのあるデザインとされた。
客室内照明はグリーン車、普通車共にLEDによる間接照明を採用。天井は大型曲面パネルとして、間接照明の光が降り注ぐような設計とされている。空調吹出口は側面パネルと一体化させ、開口部を大きくすることで客室温度の均一化と、風速の低下による騒音が低減されている。間接照明と空調吹出口を旅客の視線から見えなくすることで、視覚的ノイズを排除している。
天井パネルの構造は発想の転換といえるものだ。パネルは前後方向に数枚つなぎ合わせて使用されているが、どれだけ精密に作ってもある程度のズレは生じてしまう。そこで、つなぎ目部分をあえてV字形に大きくカットしてつなぎ目を目立たなくしている。同時にその部分に防犯カメラを設置。客室内に入った旅客から防犯カメラを見えづらくすることで圧迫感を少なくする工夫がされている。この防犯カメラは1両あたり、従来の2台から6台に増設。LTE回線を利用して運転指令などでリアルタイムで映像の確認ができる。