このメカニズムはまだはっきりとはわかっていませんが、子ども時代にいじめなどのストレスを受けることにより、社会で生きていく中で受けるさまざまなストレスに対する脳の反応が悪い方向へ変化してしまうのではないかと考えられています。

 この2017年の研究で興味深いのは、未来への期待や希望がない子のほうが、より炎症物質が増えていたことでした。ナチスによる強制収容所での生活を描いたヴィクトール・フランクルの『夜と霧』でも、クリスマスになれば家に帰れるという希望を失ったことで、多くの人々が亡くなったエピソードがありました。「心と体がつながっている」とはよく言われますが、ストレスと炎症物質の関係は、このような考え方を科学的に説明する一つの方法かもしれません。

 さらにもっと身近なところでは、親の関わり方も関係している可能性があります。2017年のメルボルン大学の研究では、9歳前後の子どものいる102の家庭を対象に、唾液中の炎症物質を調べ、アンケートで回答してもらった育児スタイルとの関係を調べています。すると、子どものことをよく見て関わっている家庭の方が、炎症物質が少なかったことがわかりました。

 親としてはもちろん、いじめや虐待からできる限り子どもを守りたい、遠ざけたいと思います。ただし、親として子どもに教えるべきこともありますし、もっと軽いストレスも含めれば、すべてのストレスから子どもを守ることはできません。そんな時、子どもが希望を持って自分自身を守ることができるように心を育てること、子どもの「見て、見て」に応えることも大事にしていきたいと思います。

○森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表。

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