○森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表
○森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表
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写真はイメージ(GettyIMages)
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 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、「子どものストレスが身体に与える影響」について「医見」します。

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 子ども時代に受けたストレスは、心の問題を引き起こす一因となるだけでなく、実際に体に影響を与え、炎症を引き起こすことがわかってきています。

 アメリカ疾病予防管理センターの研究者らが今年発表した研究では、約1万人を対象に、子ども時代の逆境経験、例えば精神的・身体的・性的虐待を受けたり、家族の薬物乱用や精神疾患、暴力、犯罪があったりした場合の健康への影響が調べられました。その結果、経験した逆境のカテゴリー数が増えれば増えるほど、虚血性心疾患、がん、慢性肺疾患、骨折、肝臓病などにかかっている割合が増えることがわかりました。

 このような逆境体験によるストレスにより、喫煙や肥満など病気につながる不健康な生活習慣を身につけやすくなり、結果として生活習慣病等になりやすくなるということが考えられています。しかしその一方で、ストレスが実際に体に影響を与え、炎症を引き起こすこともわかってきているのです。

 これまでの研究からは、虐待や薬物乱用に限らず、いじめでも炎症が引き起こされることが示唆されています。

 例えば、2015年に同じくロンドン大学から発表された研究があります。イギリスで1958年に産まれた子を50年間にわたって追跡した研究で、子供のころにいじめられていた人は、45歳時点での血液中の炎症物質が多いことがわかりました。

 また、2017年にロンドン大学から発表された研究では、メンタルヘルスの問題を抱えた経験のある12~16歳の女の子157人を対象に、「オーディションに参加してスピーチをする」という設定で、カメラの前で3分のスピーチをしてもらい、社会的なストレスを与えました。そのスピーチの前後で唾液を採取し、炎症にかかわる物質の増加量を調べたところ、いじめを受けた子で、いじめの程度がひどいほど、炎症物質が多く増えていることがわかりました。また、そのような子は、実験的にストレスにさらされる前の炎症物質の量も多かったのです。

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親の関わり方にも可能性が