「今じゃない」

 そう強く思いながら耐える私。

 感度を尖らせている私の耳に容赦なく突き刺さってくる楽曲。

 さらに、この時代の曲は歌詞が聴き取りやすいものが多い。

 集中して蕎麦を味わいたいのに、気をぬくと楽曲の世界観に持っていかれそうになる。

 もうこれは、脳内レイプだ。

 大黒摩季からのDEENの切ないバラードで、いやおうなしに蕎麦を啜るスピードが落ち、「このまま君だけを奪い去りたい」気分になったところに来ての、ウルトラソウルのイントロ。

「今じゃない」

 脳内で必死に抗い、蕎麦に集中しようとするものの、敵が強すぎる。

 サビに向けて右肩上がりに盛り上がるように作られている曲だ。

 こういうのは、ライブで観客が最高潮に盛り上がるのを想定し、その道のプロたちが計算して作り上げているのだ。

 そしてこんな大ヒット曲、ファンでなくとも何度も耳にしており、サビを口ずさめるほど馴染み深い。

 でも負けるものか。今は蕎麦だ。

 蕎麦、蕎麦、落ち着いて蕎麦!

 シャットアウトしようと抵抗すればするほど聴こえてしまう。

 そしてやってきたサビ

「そしてーかーがやーく、ウルトラソウル!!」

「ヘイ!!!!!」
 とテーブルをひっくり返したくなった。

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