下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
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ウルムチの空港は、地窩堡国際空港という。航空券の空港名を見てもわからない
ウルムチの空港は、地窩堡国際空港という。航空券の空港名を見てもわからない

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第67回はウルムチの地窩堡国際空港から。

【航空券の空港名を見てもわからないウルムチ空港…】

*  *  *

 セキュリティチェックで、ライターが没収になる空港は少なくない。アジアでいうと、中国、フィリピン、ネパール、ミャンマー、バングラデシュ、インド……。インドネシアはなぜか最近、チェック対象からはずされた。国によってルールが違うので、煙草を喫う人は苦労する。

 納得がいかない部分もある。日本から中国に行くとき、向かう飛行機に乗る乗客はライターをもっている。しかし帰りの飛行機に乗るときは没収されてしまう。ライターは危険物なのか──。いっそのこと、世界の空港で共通のとり決めをつくってくれたほうがすっきりする。

 中国のセキュリティチェックは厳しい。一度、うがい用のイソジンでもめたことがある。麻薬の疑いがあると、職員は譲らなかった。

 ライターは必ず没収される。中国人は煙草を喫う人が多いから、没収するライターは膨大な量になる。一度、北京の空港に降り立つと、その出口に没収したライターが山積みされていた。「自由におとりください」というわけだ。そんな計らいはなくなってしまったが、中国人が自分たちから自衛するようになってきた。場所は出発階の喫煙コーナー。そこで煙草を喫った人は、ライターを置いていくようになった。どうせ没収されるのだから、ほかの人に使ってもらったほうがいい……。いや、空港に着いたとき、出発階の喫煙コーナーに行けばライターが置いてあるから、損をしない……と。ライターは1元から3元、約17円から約51円。細かい話だが、わかるような気がした。

 ウルムチの国際空港に降り立った。入国審査を受け、荷物を受けとり、ターミナルビルを出ると、そこに数人のおばあさんが立っていた。空港ではあまり見かけないような人たちだと思っていると、皆、手にライターをもっていた。ひとつ1元だった。

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彼女たちのライターの仕入れ場所は?