実は哺乳瓶や調乳に使う道具の消毒も、このサカザキ菌の感染を防ぐのが主な目的です。というのも、粉ミルク自体ではなく、ミルクを溶かすために混ぜたスプーンや哺乳瓶を洗っていたブラシから、ミルクを通じてサカザキ菌に感染したと考えられるケースが過去にあったからです。サカザキ菌の一部の株は、特にシリコンやプラスチックの表面にくっついて繁殖し、バイオフィルムという膜を形成します。一般に、バイオフィルムが形成されると物理的に除去するのは大変で、薬剤への耐性も上昇すると言われています。できるだけバイオフィルムを作らせないことが大切ですし、バイオフィルムができてしまったら十分に消毒することが必要でしょう。このような観点から、WHOのガイドラインでは、哺乳瓶は1歳になるまで毎回消毒することになっており、イギリス国民保健サービスのホームページでもWHOのガイドラインに沿った内容が推奨されています(※a)(※b)。

 一方で、アメリカでは消毒はしないのが一般的です。ミルクを作る際に勧められているのは、(1)ミルクを作る前に手を洗うこと、(2)哺乳瓶や哺乳瓶の乳首をよく洗うこと、(3)室温の場所に2時間以上置いてあったミルクは捨てること、の3つです。アメリカ小児科学会のホームページでも、食器洗い機を使うかお湯と洗剤で洗えば、消毒する必要はない、とはっきり記載されています(※c)。

 消毒しなくても本当に大丈夫なのかについては、日本で行われた研究が1つありました。

 2003年に大分県立看護科学大学から発表された論文では、哺乳瓶の消毒の必要性について検討する実験を行っています。哺乳瓶にわざと大腸菌などの細菌を付着させ、洗浄や消毒をした後に哺乳瓶に10mlの生理食塩水を入れて回収し、どのくらい菌が残っているかを比較しました。洗浄・消毒の方法は、98度/90度/60度のお湯を50ml哺乳瓶に入れて5分放置する方法、60mlの水を入れて5分/3分/1分電子レンジで加熱する方法、食器洗い洗剤とブラシで洗う方法、水道水とブラシで洗う方法の8パターンです。

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菌をゼロにする意味はない