その結果、60度のお湯や電子レンジ1分、ブラシを使って水道水で洗っただけの哺乳瓶には細菌が残っていて、ブラシ・水道水の哺乳瓶からは1ml中10~100個の細菌が検出されました。しかし家庭用の食器洗い洗剤で洗浄した哺乳瓶からは、90度以上の熱湯や電子レンジで3分以上消毒した哺乳瓶と同様に、菌は検出されなかったのです。菌がついた直後に洗浄しているので、バイオフィルムが形成されていないというのもポイントでしょう。1回だけの実験結果ではありますが、哺乳瓶を使った後にすぐ洗浄すれば、洗剤とブラシだけで清潔に保つことができることがわかります。
また、アメリカのガイドラインで消毒がないのは、食器洗い乾燥機が普及していることが一つの理由かもしれません。食器洗い乾燥機に入れれば、自動的に60~80度程度のお湯にさらされることになるので、サカザキ菌を減らす効果もある程度期待できそうです。
もちろん消毒するのがベストだとは思いますが、赤ちゃんはそもそも無菌ではないので、菌をゼロにするのを目指す意味は無いでしょう。どんな方法にしろ、菌が繁殖しないよう、道具を清潔に保つのが一番大切なことです。哺乳瓶は使ったらすぐに洗浄し、ブラシと洗剤を使って、ミルクの汚れをきちんと洗い落とすようにしてください。すぐに洗浄するのが難しい場合も、さっと水でゆすいでおくのがおすすめです。
そして赤ちゃんを感染から守るためには、手を洗うことも消毒と同じくらい、またはそれ以上に大切です。哺乳瓶を組み立てたり、調乳したりする前は必ず手を洗いましょう。夜中など、手を洗うのが大変なときは、手指消毒スプレーで手を消毒するのでも良いと思います。日本の粉ミルクの調査では、サカザキ菌が検出されたのは2~4%の検体で、その量も333グラム中1個と決して多いわけではありません。哺乳瓶の消毒が常識の国もあれば、そうでない国もあります。消毒ばかりが重視されがちですが、調乳前の手洗いや、ミルクを作ってからはなるべく放置しないなど、消毒以外の方法も合わせて、赤ちゃんを感染から守ってあげてくださいね。
(a)WHO“How to Prepare Formula for Bottle-Feeding at Home”
(b)NHS”sterilising baby bottles”
(c)アメリカ小児科学会 “How to Sterilize and Warm Baby Bottles Safely”
◯森田麻里子(もりた・まりこ)
1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表