森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表
森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表
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赤ちゃんを感染から守るためには、手を洗うことも消毒と同じくらい、またはそれ以上に大切(※写真はイメージ)
赤ちゃんを感染から守るためには、手を洗うことも消毒と同じくらい、またはそれ以上に大切(※写真はイメージ)

 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、「哺乳瓶の消毒」について「医見」します。

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 妊娠中にママ向け雑誌や育児書を読んでいて、一番不思議だったのは、哺乳瓶の消毒です。私の持っている育児書では、生後1カ月までは消毒するようにと記載されています。ネットを見ると少なくとも3~4カ月までとか、離乳食がはじまるまでと書いてあったりします。

 確かに哺乳瓶を清潔に保つことは必要です。しかし、赤ちゃんといえばしょっちゅう指をしゃぶっているもので、当然指は雑菌だらけなのではないか、という疑問もあります。消毒までする必要は本当にあるのでしょうか? 消毒する必要があるとすれば、いつまでやれば良いのでしょうか?

 哺乳瓶の消毒は、細菌から赤ちゃんを守るために行うのですが、実はミルクと関連する病気の原因菌はほとんど決まっています。「サカザキ菌」と「サルモネラ菌」です。液体ミルクは無菌なのですが、日本ではまだ販売されていません。しかし粉ミルクは、現在の製造技術では無菌にすることはできません。特にサカザキ菌は、土壌や水など環境中に多く存在する菌で、粉ミルクからもよく検出される上、髄膜炎などの重症感染症を起こすことがあります。1歳未満の赤ちゃんは感染のリスクが高く、特に危険なのは2カ月未満の赤ちゃん、早産や低出生体重児の赤ちゃん、そして何らかの理由で免疫抑制状態にある赤ちゃんです。

 これまでにも多くのアウトブレイクが報告されており、2004年にはフランスで2人の赤ちゃんが亡くなっています。これを受けて、世界保健機関(WHO)は2007年に、粉ミルクの調乳を70度以上で行うようにという新しいガイドラインを発表しました。サカザキ菌は、71~72度に加熱すれば、およそ0.7秒ごとに10分の1の数に減らすことができます。これが、調乳温度が変更された根拠です。

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アメリカでは消毒なしが一般的?