日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、「鉄分の摂り方」について「医見」します。
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妊娠中は、食事に工夫をしてカルシウムやDHAなどの栄養素を摂れるよう、気をつけている人も多いですね。もちろん必要な栄養素は食事から摂取できればベストですが、葉酸以外にも、食事から十分な量を摂るのが難しい栄養素があります。それは、鉄分です。
前回お話したように、葉酸の必要量は妊娠中期以降減り、それ以降は鉄分が一番大切になってきます。しかし実際には、サプリメントは葉酸だけという方が多いのではないでしょうか。実を言うと私も妊娠中はその重要性を知らず、貧血もなかったため、鉄分のサプリメントは摂っていませんでした。今回は、そんな鉄分の摂り方についてお話したいと思います。
鉄分は血液をつくることだけでなく、赤ちゃんの脳や体の発達にも大切だということがわかっています。
鉄不足でよく起きるのは貧血、つまり血液中のヘモグロビンの量が少ないということですが、貧血がなくても鉄分が十分足りていない場合もあります。その指標になるのが、血液中のフェリチンというタンパク質の量です。フェリチンは、体の中で鉄分とくっついて、鉄を保存する働きをしています。貧血がなくても、血液中のフェリチンの値が少なければ、鉄が不足している可能性があるということです。
例えば、1992年にニュージャージー医科歯科大学から発表された論文では、826人の妊婦さんの貧血と、赤ちゃんが産まれた時の状態を調査しています。その結果、お母さんが鉄欠乏性貧血の場合、赤ちゃんの出生体重が低くなるリスクがオッズ比にして3.1倍、早産になるリスクが2.7倍になっていたことがわかりました。出生体重が低かったり、早産だったりすると、NICU(新生児集中治療室)に入って治療を受けることが必要になったり、体に障害が出てしまう可能性もあります。鉄分を十分に摂ることは、プレママ時代から大事なのです。