それでは、どのくらいの量の鉄分をとればいいでしょうか?

 1998年のアメリカ疾病予防管理センターのガイドラインでは、1日30ミリグラムの鉄サプリメントの摂取が推奨されています。厚生労働省も、妊娠初期は2.5ミリグラム、中期・後期は15ミリグラムを、妊娠していない時の摂取量に加えて摂取することを勧めています。

 食品から鉄分を摂取する場合、おすすめなのは、あさりの缶詰です。水煮缶ですと100グラムあたり29.7ミリグラムで、調理もしやすいため、私も妊娠中よく使っていました。一方で、鉄分が多い食品としてよく紹介されるのはレバーです。例えば鶏レバーなら100グラムあたり9ミリグラムの鉄分が含まれています。しかし、レバー類はビタミンAの多い食品で、100グラムの鶏レバーのビタミンA量は、1日あたりの上限の5倍以上にあたります。時々食べるのは良いと思いますが、レバニラや焼き鳥のレバーを毎日食べるのは摂りすぎです。

 他の食品は、牛もも肉なら100グラムあたり2.5ミリグラム、豚もも肉だと0.5ミリグラムといったように鉄分はあまり多くなく、食品からたくさんの鉄分を摂取するのは難しいです。特に妊娠中期以降は、10~20ミリグラムの鉄分のサプリメントや鉄分を付加した食品を摂取するのがおすすめです。

 サプリメントの種類としては、最近は、通常の鉄サプリメントだけでなく、ヘム鉄のものも売られています。鉄分はヘム鉄と非ヘム鉄の2つに分かれます。ヘム鉄は肉や魚類に含まれている鉄分で、吸収率が優れています。しかし植物に含まれる鉄分のほとんど、そして肉や魚類に含まれる鉄分でも60%は非ヘム鉄と呼ばれるもので、ヘム鉄と比べると吸収率が悪いです。非ヘム鉄を効率的に摂取するためには、ビタミンCや動物性のタンパク質と一緒に摂るのがポイントです。逆に、お茶やコーヒーなどタンニンを含む食物や、乳製品などカルシウムを多く含む食品と一緒に摂取すると、吸収率はさらに低下してしまいます。吸収率の面からは、ヘム鉄が優れていると言えるでしょう。

 日本では、妊娠中の鉄サプリメントについてはまだ一般的ではないかもしれません。食事から十分摂取するのが難しいと思う場合は、妊娠中期からの鉄分のサプリメントも、ぜひ検討してみてください。

【お詫びと訂正】
※記事初出し時に、「厚生労働省も、妊娠初期は2.5ミリグラム、中期は12.9ミリグラム、後期は17.5ミリグラムを、妊娠していない時の摂取量に加えて摂取することを勧めています」となっていましたが、中期と後期については「15ミリグラム」の誤りでした。訂正してお詫び申し上げます。

◯森田麻里子(もりた・まりこ)
1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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