対局が終わったあと、なごやかに意見をかわし、検討をおこなう藤井と羽生。勝っても負けても、両者とも真摯に盤上の真理を探究し続ける
対局が終わったあと、なごやかに意見をかわし、検討をおこなう藤井と羽生。勝っても負けても、両者とも真摯に盤上の真理を探究し続ける

 将棋日本シリーズJTプロ公式戦の2回戦で羽生善治九段と藤井聡太五冠、「史上最強」の2人が久々に対局。両者のこれまでの軌跡を振り返りながら、将棋界の今を紹介する。AERA2022年9月26日号の記事を紹介する。

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 羽生と藤井は過去に公式戦で6回対戦。結果は羽生1勝、藤井5勝で、現在までのところ、藤井が勝ち越している。

 両者の初手合いは18年2月の朝日杯将棋オープン戦準決勝。竜王に復位し、史上初の永世七冠を達成した王者・羽生に、15歳五段の藤井が挑むという構図だった。結果は藤井が堂々の勝利。藤井は決勝でも広瀬に勝ち、全棋士参加棋戦における史上最年少優勝記録を更新した。それ以前の記録は87年、天王戦(当時存在した棋戦)で優勝した羽生四段(当時)の17歳だった。

 20年の王将戦リーグでは、両者は開幕局で対戦。短手数ながら密度の濃い一局で、最後は羽生が鮮やかな詰みを読み切って勝った。翌21年のリーグでは、藤井が勝利。史上最年少19歳での王将位獲得(および史上最年少五冠)へとつながった。

 将棋の世界では大棋士であっても、キャリア晩年には、次代の大棋士を相手にすれば分が悪くなる。大山や中原であっても例外ではない。それでも、さすがという戦績を残している。

 48歳離れた大山と羽生の対戦成績は、大山3勝、羽生5勝(大山没後の不戦局をのぞく)。最後の対局は91年で、大山は68歳。棋王を保持する羽生は20歳。結果は大山の勝ちで、おそろしいというよりない。

■巻き返しもあり得る

 藤井は今年7月19日に20歳になった。羽生は9月27日に誕生日を迎えると52歳。32歳は大きな差ではあるが、大山の50代、60代の戦いぶりを見れば、羽生がこれから藤井に対して巻き返したとしても、不思議ではないだろう。

 23歳離れた中原と羽生の対戦成績は中原10勝、羽生19勝。最後の対局は08年で、中原は60歳。名人を保持する羽生は37歳。結果は中原勝ちだった。

 中原と羽生によるタイトル戦番勝負は、多くのファンに望まれながらも、ついに実現しなかった。では羽生と藤井のタイトル戦はどうだろうか。

 直近で可能性があるのは王将戦だ。羽生はこれから渡辺、豊島、永瀬拓矢王座(30)ら錚々(そうそう)たるメンバーが名をつらねるリーグ戦に臨む。そこで勝ち進めば、今年度中に藤井王将-羽生挑戦者という構図で七番勝負が実現する。9月19日の開幕戦において、羽生は勢いある新鋭の服部慎一郎四段(23)と対戦する。こちらもまた注目の一番だ。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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