最後に、さすがの藤井でも達成が難しいと思われる記録をピックアップしてみよう。

 中原が67年度、20歳五段の頃に記録した年間最高勝率8割5分5厘(47勝8敗)は時を経てなお燦然(さんぜん)と輝き続ける。通算勝率が8割3分を超える藤井は毎年、あともう少しというところまで迫りながら、いまだに中原の記録は超えられていない。

長きにわたり将棋界の王者として君臨し続けてきた羽生善治。主要な記録では歴代1位となって久しく、50代を迎えたいまもなお、前人未到の境地を歩み続ける。今年度は好調で、久々の優勝、無冠返上の期待もかかる(photo 写真映像部・松永卓也)/史上最年少14歳でデビューして、そのまま無敗で史上最多29連勝を達成した藤井聡太。現在はタイトル戦を10期連続で制覇という、これもまた信じられないような記録を更新している。日本シリーズでは初優勝を目指す(photo 朝日新聞社)
長きにわたり将棋界の王者として君臨し続けてきた羽生善治。主要な記録では歴代1位となって久しく、50代を迎えたいまもなお、前人未到の境地を歩み続ける。今年度は好調で、久々の優勝、無冠返上の期待もかかる(photo 写真映像部・松永卓也)/史上最年少14歳でデビューして、そのまま無敗で史上最多29連勝を達成した藤井聡太。現在はタイトル戦を10期連続で制覇という、これもまた信じられないような記録を更新している。日本シリーズでは初優勝を目指す(photo 朝日新聞社)

■破るのが難しい記録

 羽生は00年度、89局戦って68勝した。これが年間最高対局数、勝数の記録である。羽生自身も言及しているように、いかに藤井であっても、この記録を破るのは難しい。というのは、当時は勝てば勝つだけ対局がつく「勝ち抜き戦」があり、羽生はそこで16人抜きを達成している。逆にいえば、もしこれから同様の公式戦が始まれば、藤井は想像もできないような数字を残す可能性はある。

 羽生は今期日本シリーズで出場回数は33年連続33回目となる。当然ながらこれも史上1位であり、またこの先、どこまで伸びるかわからない。

 藤井の30年後はどうなっているのだろうか。羽生のあとに藤井が登場したように、藤井の系譜を継ぐような大天才は、これから現れるのだろうか。(ライター・松本博文)

AERA 2022年9月26日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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