「バリウムと胃カメラ(胃内視鏡)、どちらが優れているかは一概には言えない」(近藤医師)とはいうものの、バリウムがコントラストで胃の粘膜の凹凸の乱れを見るのに対し、「胃カメラならば、食道も含め、胃の状態をカラーできちんと確認することができる」(同)と、見え方が大きく違うのだ。

 AERAが行ったアンケートによると、胃がん検査にバリウムを選択する医師はわずか4%。95%もの医師が胃カメラを選択すると回答している。胃カメラを選んだ理由の多くが、「バリウムは見逃しが多い」「バリウムで異常疑いだと結局胃カメラ」「早期がんを発見できる」「細胞診検査もできる」といったものだった。

 胃がんは、日本人のがんの死亡数の第3位を占めるが、この20年ほどで死亡率が急激に下がっている。近藤医師は言う。

「その理由として、胃がんの治療が進歩し、進行しても手術で完治するケースが増えたことと、日本人のピロリ菌の感染率が下がり、胃がんになる人が減ったことが挙げられます」

 ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)とは、胃に生息する細菌で、胃潰瘍や胃炎など胃の病気に深く関係する。ピロリ菌が陽性の全員が胃がんになるわけではないが、胃がん患者の99%にピロリ菌の感染歴があることがわかっている。

 汚染した水や食物から感染すると考えられ、現代日本では感染率は年々減少し、10代では10%ほどと言われる。

 胃がんの早期発見のために、9割以上の医師が選択した胃カメラだが、一般の人のなかには抵抗を示す人も。やってみたが「二度とやるかと思った」(44歳男性)、「涙も出るし、異物感もあるし、とにかくつらい。医師の話が頭に入ってこなかった」(34歳女性)という声があがる。

 だが、胃カメラを選択すべき理由はまだある。これから上がるだろう食道がんのリスクにも対応できるからだ。

「ピロリ菌除去は2013年から保険適用の対象が広がったため、除去する人も増え、さらに胃がんは減ると考えられます。ただし、ピロリ菌を除去すると、胃酸の働きが活発になり、逆流性食道炎が増えています。将来的に食道がんの増加を懸念する医師もいます」(近藤医師)

 食道がんの早期発見には、バリウムよりも胃カメラが確実だ。早期の食道がんの85%が胃カメラで見つかっているのに対し、バリウム検査で見つかっているのは11・3%に過ぎない。(編集部・熊澤志保)

AERA 2019年2月11日号より抜粋