「移民や外国人への差別はどこの国にもあると知ってはいましたが、私の場合、留学のときは奨学金をもらい、就職も苦労しなかった。周りの日本人も理解がある人ばかりで、李さんのようにたたかれることもなかった」

「中国に帰れ」と罵声を浴びせられた李さんは「私は日本に帰化しています。どこに帰れというんですか」と言い返した。差別についての考えを深め、「外国人や少数派を代弁したい。少数派を排除せず、彼らが参加したいと思う政治が求められている」と訴えるようになった。若者の政治離れを憂い、繁華街を行く若いホストやキャバクラ嬢、通行人にこう呼びかけた。

「あなた方が投票に行かないとこの国は変わらない。私に入れなくてもいいから、投票所に足を運んでほしい」

 ケイさんは当初、他の人のインタビューも撮っていたが、次第に李さんだけを追うようになる。

「他の候補者と言い争うところとか、撮られたくないところまで全部ついてきた」というカメラは、選挙運動を通じて日本社会への思索を重ねていく李さんの成長する姿を記録することとなった。ケイさんは言う。

「選挙の過程や結果よりも、李さんが感じたことや、世の中に提示した問題を伝えたいと思いました。李さんだけで映画になる。何の解説も必要ないと気づいたのです」

(朝日新聞編集委員・北野隆一)

※AERA 2018年12月24日