

中国出身で、東京・新宿の「歌舞伎町案内人」として知られる李小牧(リ・コマキ)さんが挑んだ選挙戦のドキュメンタリー映画が公開中だ。
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1988年に来日し、外国人観光客らに飲食店や風俗店を紹介する仕事で身を起こした李小牧さん(リ・コマキ)(58)が、新宿区議選に立候補したのは2015年4月。東京・中野で公開中のドキュメンタリー映画「選挙に出たい」は、1018票を得たものの最低当選ラインに400票余り及ばず落選するまでの李さんに密着。14年9月から一人で撮影したのが中国人のケイ菲(ケイ・ヒ、ケイは開の簡体字におおざと)さん(36)だ。
ケイさんは河北省出身。河北大学日本語学科3年だった04年、福島県に短期留学し、06年からは北海道大学の大学院でメディアを専攻、修士号を取得した。東京の番組制作会社「テムジン」に就職し、中国人の暮らしや考え方を日本で紹介するドキュメンタリー番組を作ってきた。
転機は11年の東日本大震災だった。来日間もないころ、日本語がわからず苦労したときにお世話になった福島の人たちを思い出した。中国人芸術家の蔡國強(ツァイ・グオチャン)さんが福島県いわき市の復興支援のため桜の植樹プロジェクトを進めているのを取材し、13年に番組にまとめた。同年退社してフリーとなり、英国に1年留学。「やはり日中関係を取材したい」と気持ちを固めて日本に戻った直後の14年9月、李さんが日本国籍を取得して選挙に出ると知った。
「当選したら歴史的なことだ」
会った翌日から撮影を始めた。
最初は李さんがどこまで本気なのか、つかみかねていた。
「半分遊びで、当選して名を残したいだけなのか、とも思いましたが、選挙に出て壁にぶつかるたびに、だんだん真剣になっていくのがわかりました」
李さんは日本国籍の取得に伴い中国籍を離脱した。切り込みを入れられ、無効になった中国パスポートを手に「日本人にふさわしいと認めてもらい、選挙に出られてうれしい」と努めて明るく語りながら、涙をこぼした。カメラには、生まれ育った祖国への惜別の表情が映っていた。
街頭に立つ李さんに対し、通行人から「中国人は嫌いだ」と容赦ない声が投げつけられるのを見て、ショックを受けたとケイさんは振り返る。