もちろん日本陸連マラソン強化戦略プロジェクトリーダーの瀬古利彦(61)も「常識では考えられない」と話す設楽独特の調整法が実ったともいえる。

 その飄々とした性格は練習法にも表れ、通常のランナーはレース前に40キロ走などを取り入れ距離を踏むものだが、「僕は30キロ以上の距離走はやりません」と自らの考えを貫く。

 2月4日に丸亀国際ハーフ(日本人1位)、11日に唐津10マイルロードレース(1位)を走るなどして連戦の中で調整。勝負勘を磨くため、レース数を意識的に増やしたという。

「こだわったのはタイムよりも勝負。レースに出たことで勝ち癖もついた」

 今年の東京マラソンは設楽のほか、井上が2時間6分54秒で2時間7分を切るなど、なんと計9人もの日本人選手がサブ10(2時間10分切りの意)を達成してもいる。瀬古は上機嫌で言う。

「昔は宗(茂・猛)兄弟に私や中山竹通をはじめ、森下広一や谷口浩美がいた。ライバルがいたことで、切磋琢磨できた。(昨年12月の福岡国際マラソンで2時間7分19秒で走った)大迫くん(傑、26、ナイキ・オレゴンプロジェクト)も、今回の結果に負けじと、タイムを縮めてくるでしょう」

 この日は過去最多のメダル獲得で日本の強さを示した平昌五輪の閉幕日。長く低迷していた日本男子マラソンが、20年東京五輪に向けて復活の狼煙をあげてあとに続こうとしている。(文中敬称略)

(スポーツライター・栗原正夫)

AERA 2018年3月12日号