「大便といっしょに大量の脂が出るので、『すごい効果だ!』と感激しました。でも、トイレを流してもラー油のような脂が便器にベットリとこびりついたまま。それを見たヨメに『急にこんなおかしなウンチが出るなんて、絶対悪い病気よ!』と大騒ぎされました」

 さらにヒロシさんを困惑させたのが、ゼニカルの副作用である「便失禁」である。思いがけないときに、脂混じりの水様便が少量出てしまうというのだ。

「こっそりオナラをしたときや、重いものを持ったりくしゃみをしたりしても出ることがあって、そのたびに冷や汗が出ました」

 下着を通り越してズボンにまで染み出す量で、外出時は念のため着替えを持参したという。しかも、下着やズボンについたシミは洗濯しても漂白してもきれいにならず、ズボンを何枚もダメにしてしまった。

 それでも、100キロ近かった体重は2カ月で5キロ落ちたという。「この薬があるから食べても大丈夫」という安心感で、この期間は大好物の焼き肉やしゃぶしゃぶを思う存分食べていたとか。

●男性も生理用ナプキン

 こんなにすごい効果を実感したにもかかわらず、ヒロシさんは服用をやめてしまった。

「漏らすのも不安だし、汚れたトイレをそのままにしておくとヨメに怒られるのでその都度掃除するのが面倒で。何より、外出先のトイレは個室に掃除道具も置いてないし、汚したトイレを人に見られないかハラハラしながら逃げるのが嫌になってしまいました」

 細田医師は「便失禁対策」についてこう解説する。

「慣れるとある程度コントロールできるようになりますが、患者さんにはあらかじめお尻にティッシュを当てておいたり、男性でも生理用ナプキンを利用したりするよう勧めています」

 ちなみに、ゼニカルは脂肪の吸収を抑えることで体重減少が期待できる薬なので、普段から脂っこい料理をあまり食べない人には効果がないという。

 ゼニカルと同じリパーゼ阻害剤としては、武田薬品が「オブリーン」という薬を開発し、2013年に製造販売承認を得たが、中央社会保険医療協議会が薬価収載を見送った経緯があり、販売にいたっていない。

次のページ