さらにNHKでは別の事情もあるようだ。働き方改革だ。ドキュメンタリー制作チームは、ロケや編集に膨大な時間をかけてしまうので、そのしわ寄せは大きい。

「働き方改革とは番組の作り方改革でもあります。これまで、満足のいくシーンが取れるまでロケに膨大な時間をかけていたが、それを見直そうとしています。大型で重厚なドキュメンタリーは大きく分けて2種類。ヒューマンドキュメンタリーと歴史・自然ドキュメンタリーです。前者は密着する時間を短くして、後者は事前取材を詳細に行って現場でのロケ時間を減らす努力をしている。それがコスト削減にもつながるという考え方です」(NHK関係者)

◆視聴者が求める新しいスタイル

 NHKには新たな試みもある。3日間ひとつの場所で定点観測する「ドキュメント72時間」、駅や公共施設に置かれたピアノを弾く人を追う「駅ピアノ・空港ピアノ・街角ピアノ」など、重厚長大とは言いにくいドキュメンタリー番組で、「これらは働き方改革の一環」という。

「受信料が値下げされれば制作費が減ることが予想されます。その中で番組の質を下げずにどうやって作っていくか。その答えが“選択と集中”です。大型ドキュメンタリーに制作費を集中させ、本数を絞って作る」(同)

 一方の民放も変わってきた。ドキュメンタリー要素が組み込まれたバラエティー番組が増えているのだ。「ポツンと一軒家」(テレビ朝日系)、「Youは何しに日本へ?」(テレビ東京系)や「オモウマい店」(日本テレビ系)、「ニンゲン観察バラエティ モニタリング」(TBS系)……。それらの多くは、制作側が少人数で撮ってきたドキュメント風映像をスタジオでタレントたちが見るというスタイルだ。

 こうした傾向には若い視聴者の志向も影響していると鎮目氏は言う。

「若い人には潜在的にテレビへの不信感があるとよく言われています。作り込みすぎた映像にリアリティーがないと感じているんです。『72時間』やドキュメンタリー風のバラエティーが人気なのは、ありのままを見ている感じを味わえるから。予定調和ではない雰囲気のドキュメンタリーというわけです」

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