“現場”で“密着”する必要のあるドキュメンタリーをコロナ感染対策と両立させるのは非常に難しいのだ。実際にテレビの現場からは悲鳴のような声が聞こえてくる。

「コロナ禍の2年間は本当に厳しい。僕は海外の鉄道の旅みたいな番組が得意だったのですが、まったく海外には行けなくなってしまった。特にNHKの仕事は制約が厳しく、国内でも県境をまたぐロケには行かずに、現地のスタッフに撮影等を任せるように言われている」(制作プロダクション勤務・30代)

「特に去年は取材に制限が多かった。局からロケの許可が取れれば、先方に連絡してさらに許可を取り、PCR検査をそのつど受けて、マスクやフェースガード完備で、しかもスタッフ数を極力抑えて、時にはディレクターの私が一人ですべての役割をこなすこともあった。去年だけでPCR検査を10回以上したのは間違いないですよ」(フリーディレクター・50代)

 ロケに行けなければドキュメンタリーにならない。しかし、容易には取材に出かけられない中では工夫が必要になってくる。

「海外ロケの代わりにリモートでインタビューをして、映像は現地のカメラマンに撮ってもらった。でも現場にディレクターが行けないのでいい画にならない。仕方なくリモートインタビューの音源にイメージ映像をのせて放送したこともある」(民放ディレクター・40代)

「インタビューはリモートでできるけど、やはり困るのは映像。NHKではできないけど、民放では苦肉の策で取材対象者側の人に携帯電話で動画を撮影してもらった。それを使って完成させたら“画質は落ちるけど、仕方ないからこれでいきましょう”って。それ以来、素人に撮ってもらった携帯の動画で納品することが増えた」(前出・フリーディレクター)

「海外取材のときは日本からディレクターが、リモートで海外にいるコーディネーターに指示を出しながらインタビューや撮影をしている。手間はかかるけど、そうでもしないと狙ったシーンは撮影できない」(前出・制作プロダクション勤務)

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