離婚届
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金にかえるなら延べ棒より金貨 (c)朝日新聞社
金にかえるなら延べ棒より金貨 (c)朝日新聞社

 夫婦間の秘密であるへそくり。熟年夫婦の場合、月々のお小遣いを増やすといったかわいらしいものではなく、離婚時の財産分与で相手にお金を渡したくないと隠し口座やペーパーカンパニーを作る人が少なくないという。対策は敵の手口を知ることから。へそくりの作り方とその暴き方をその道のプロに聞いた。

【金にかえるなら延べ棒より金貨】

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「こんなに少ないはずないじゃない……」

 東京都在住の主婦、山本聡子さん(仮名・53歳)は、夫(63)が申告した財産額を見て、怒りで震えが止まらなかった。離婚の意思が固まり、お互いの財産を分割する財産分与について話し合ったときのことだ。3年前から会社役員を務める夫の年収は、2千万円を超える。子どもはおらず、夫婦2人の生活を続けてきた。住宅ローンは10年以上前に完済。夫の趣味といえば、たまに行くゴルフぐらいで、お金の使い方は慎重だった。だから貯蓄額は、少なく見積もっても2千万円を超えると踏んでいた。

 ところが、夫が申告した貯蓄額は、想定より一桁も少ない200万円。問いただしても、「使ってしまった」の一点張りだった。これでは、聡子さんの取り分は、100万円にしかならない。

 どこかに隠しているに違いない──。そう確信した聡子さんは、弁護士に頼み、夫の財産について調べ始めた。すると、本当の貯蓄額は4千万円もあったことがわかった。夫の財産隠しは、驚くような手口だったという。

「離婚が現実味を帯びると、こうやって財産の隠し合いが始まる夫婦は多いですよ」

 夫婦問題研究家の岡野あつこさんは、こう断言する。離婚時の財産分与で「何でこんなにお金がないの?」と驚くケースがあとを絶たないという。夫婦で協力して築いた全財産を半分ずつに分ける財産分与は、離婚手続きの中で最ももめる部分だ。

 マネーセラピストとして、離婚問題を含め、5千件を超える金銭相談を受けてきた安田まゆみさんも、こう話す。

「貯金といえば、昔は何かあったときに家族が困らないように備えるというものでしたが、最近では離婚を見込んだ自分の資金作りという意味合いも強くなってきた。夫婦の老後のためというと貯金する気にならないのに、“自分の生活資金のため”というとスイッチが入る人が多いんです」

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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