酒を飲んで記憶がなくなることを、ブラックアウトという。時にハメを外して飲みすぎ、記憶をなくした経験があるという人もいるだろう。だが、アルコール依存症者は問題行動とブラックアウトをくり返し、長年にわたって記憶の欠損が生じることになるのだ。

 アルコール依存症の魔の手は中高年ばかりでなく若年層も蝕む。東京都内在住の35歳の男性は退院して2カ月が経過したばかり。最初に依存症と診断されたのは、27歳のときだった。

「1年間くらいやめられた時期があったので、自分は依存症じゃないと思うようになっていました。酒をやめたばかりのときは離脱症状に苦しみました。手足の震えや発汗、幻覚も現れた。大量の虫や、人なんていないのに誰かが立っているのを見て怯えました」

 今年に入って、わずか1カ月の間に酔っ払って2度も道路で転倒し、脳挫傷などの重傷を負った。2回とも気がつくと病院のベッドだった。実は、自分で救急車を呼んだのだが、記憶が抜け落ちている。この男性もブラックアウトを起こしていたのだ。アルコールの影響を考えるとき、肝臓のデータばかりに気を取られがちだが、恐ろしいのは脳の機能に深刻なダメージを与えることだ。

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