成増厚生病院(東京都板橋区)の東京アルコール医療総合センター長を務める垣渕洋一医師が解説する。

「アルコール依存症の患者さんには、脳萎縮を起こしている方が多くいます。記憶をつかさどる脳の海馬の機能が低下し、短期記憶が長期記憶に移行しにくくなるので、起きたことをどんどん忘れていきます。断酒して1年くらい経たないと脳の機能が回復せず、記憶が定着しません」

 また、人間としての理性や社会性を保つ中枢である前頭葉の機能が低下するという。垣渕医師が続ける。

「前頭葉は悪いことを行わないためのブレーキ役ですが、そこが弱まってしまう。一方で、意欲や快感を生み出す『報酬系』は、アルコールが入ると大量のドーパミンを放出させる。すると、アルコールは自分にとって有益なものだと判断する。これをくり返すと、やがて『飲め、飲め』というアクセルばかり踏み込み、『飲んではいけない』という場面でもブレーキが壊れるという状態に陥るのです。その悪循環にはまると、連続飲酒発作が起きます」

 連続飲酒発作は、酔い潰れるまで飲酒して、目が覚めると再び飲み始めるというスパイラル状態だ。

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