アルコール専門外来がある慈友クリニック(東京都新宿区)の中田千尋院長が説明する。

「定年退職や単身赴任などで、生活環境が変わるタイミングが要注意です。飲酒習慣のある人はどうしても気持ちが緩み、節度ある飲み方ができなくなることがあります。しだいに抑制が利かなくなり、昼夜問わず飲むようになります。サルを使った実験でアルコールを与えると止まらなくなり、ひたすら摂取し続ける。これと同じことが人間の身体や脳にも起きます。本人の意思にのみ委ねることのできない病気なのです」

 冒頭の藤原さんのように依存症から回復するには、“暇”な時間をどう埋めるかが、断酒を続ける鍵となる。藤原さんは市民農園で野菜を作ったり、趣味の囲碁を打ったりと工夫しながら過ごしているという。彼の場合、一度の入院で比較的すんなりと断酒できた。しかし、「スリップ」と呼ばれる再飲酒をくり返し、悲惨な末路に至るケースが少なくない。

 自助グループの断酒会で地域責任者を務めている荒井清臣さんはこう語る。

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