「この時期になると高齢者施設などでインフルエンザの集団感染が起こり、何人かの高齢者が亡くなったなどと報道されますが、そこにはインフルエンザから肺炎を併発して死亡した例も少なからずあると思われます」(寺本医師)

 いずれにしても、加齢や持病などで免疫力や呼吸機能が落ちている高齢者にとって、肺炎は命に関わる重大な病気であることは確かだ。さらに高齢者の肺炎は、かかったら治せばいいという単純な問題では片付かない。寺本医師は言う。「実は、肺炎の後に寝たきりや介護が必要になるケースが多いんです。認知症のリスクも高めます」

 通常、肺炎になると入院して抗菌薬などの投与が行われる。また、肺に誤って唾液(だえき)などが入り込む誤嚥(ごえん)を防ぐため絶食や安静が必要で、回復するまでベッドで横になる日が続く。

「長期間、栄養もとれず動けない状態が続くと、筋肉が減って筋力が低下します。噛む筋肉が減るためのみ込む力が落ち、脳への刺激が減るので認知機能の低下も招く。肺炎が治って退院するころには、入院前よりも老化が進んだ状態になりやすいのです」(同)

 自宅から病院を受診したが、帰りは介護施設だった……。そんな事例も少なくないそうだ。

 このやっかいな病気から身を守るために何が必要か。寺本医師は、「インフルエンザ・風邪の予防」「口腔ケアと嚥下(えんげ)リハビリ」「年1回の耳鼻科受診」「肺炎球菌ワクチンの接種」を挙げる。当然、禁煙は必須だ。

「肺炎球菌そのものは自然に存在せず、主に人間の気道や咽頭に棲息しています。菌を持つ保菌者が何らかのきっかけで体力や免疫力が落ちると感染が起こり、肺炎を発症するのです」(同)

 まずインフルエンザ・風邪の予防だが、マスクや手洗いなど一般的な予防のほか、インフルエンザの予防接種は毎年受けておきたい。

 2番目の口腔ケアと嚥下リハビリについてだが、高齢者は誤嚥をしやすく、その際に肺に肺炎球菌が一緒に入ると、誤嚥性肺炎を発症しやすい。

次のページ