デノスマブは12年、製品名「ランマーク」で骨転移の治療薬に、13年には「プラリア」という製品名で骨粗鬆症薬として使えるようになった。いずれも皮下に注射する。“ヒト型抗RANKL抗体”というジャンルの薬で、ランクルにピンポイントで結合して作用を止める。そのため骨の破壊を抑え、痛みや骨折といった症状を軽くする効果がある。鈴木医師はこう話す。

「石井さんは治療開始から約3年が経過し、一時はPSA値が0.2ng/mlまで下がりました。最近は1.1ng/mlまで上昇しているため経過観察中ですが、前立腺がんは小康状態を保っています。骨転移も悪化することなくコントロールできています」

 そしてこう付け加えた。

「前立腺がんは内臓への転移が少ないがんです。ただし、薬が効かなくなると骨に転移し、その後、内臓に転移します。とにかく骨転移を抑えることが第一です。骨転移を制御できれば、のちの体調を改善することにもつながります。痛みが出る前から治療することが大切です」

 骨転移への対策には、デノスマブのほかにゾレドロン酸や、放射性医薬品のストロンチウム89という薬があった。しかし、痛みの軽減や骨折などの発症を抑制・遅延させる効果しかなかった。

 そうしたなか、今年6月に前立腺がんに対する骨転移治療薬として、初めて生存期間を延ばす薬が登場した。放射性医薬品の「ラジウム223」だ。ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん(CRPC)患者の9割に最終的には骨転移がみられ、同剤はこうした患者が適応になる。

「前立腺がんの骨転移の治療は、従来は痛みなどの緩和が目的でした。ラジウム223は骨のがん細胞そのものにダメージを与えるため、生存期間の延長が望めます」

 そう話すのは北里大学医学部泌尿器科教室の佐藤威文医師だ。

 同剤は放射線のなかでもα線を放出する国内初の薬だ。静脈から体内に入ると、骨代謝が活発ながん細胞部分に取り込まれる。β線を照射するストロンチウム89に似ているが、α線はβ線より強力な高エネルギーを照射し、がん細胞のDNAの二重らせん構造を切断する。DNAが複製できないようにして、がん細胞も作らせないようにする仕組みだ。

 これまでの放射性医薬品では生存期間が延びることはなかったが、臨床試験では平均で3.6カ月延長すると示されている。

週刊朝日  2016年12月2日号より抜粋。