なでしこジャパン高倉監督 国内初陣で快勝「女同士のピリピリはない」
「もともと指導者はやりたくなかった」と話す高倉監督。凛とした姿が印象的だが、オフの日は昼間からそば屋でビールを飲むのが好きだとか (c)朝日新聞社
黄金期を支えた澤穂希(引退)や宮間あや(無所属)が去った新生なでしこジャパン。初の女性監督の下、若手の躍動でコスタリカに快勝した。
「立ち上がりは緊張があったのか、動きが硬かった。結果的に勝てたことは評価したいですが、内容的にはまだまだ。今後もコツコツやっていきたい」
昨年、なでしこジャパンの指揮官に就任し、国内での初陣となった4月9日のコスタリカ戦(熊本)で3-0と快勝した高倉麻子監督(48)は、少し顔を曇らせながらそう試合を総括した。
●約4歳も若返る
なでしこジャパンは佐々木則夫前監督の下、2011年ドイツW杯優勝、12年ロンドン五輪銀メダル、15年カナダW杯準優勝と国際大会で3度続けて決勝に進出するなど、輝かしい成績を残してきた。しかし、16年リオ五輪はメンバーの高齢化なども指摘され、まさかの予選敗退。黄金期を支えた澤穂希や宮間あやらも去り、そのあとを託されたのが高倉監督だった。
19年フランスW杯、20年東京五輪に向け、新たな体制でスタートを切ったなでしこジャパン。厳しい船出となることは予想されたが、高倉監督は就任以来、積極的に若手の起用にかじを切った。コスタリカ戦ではメンバーの平均年齢が23.2歳とリオ五輪予選当時と比べると約4歳も若返り、ゴールを挙げた横山久美(23)、田中美南(22)、籾木結花(21)の3人は、いずれも20代前半の選手だった。内容に不満は残ったが、若手の台頭は大きな収穫といえる。
高倉監督はなでしこジャパン初の女性監督としても注目を集めるが、「選手をいかに引っ張るかに男性も女性も関係ない」とキッパリと主張する。
「もちろん、違いという点では男性に比べて女性のほうが、甘えを許さない部分はあるかもしれない。男性指導者は女子選手に厳しいことを言っても、最後のところではやさしい。女性指導者でも男性指導者でもそれぞれ強みはある。ただ、根本的には指導者の人間性が大事になる」
●負けん気の強さも
女性は女性の上司を嫌う。一般社会ではそんな声も耳にするが、選手の反応はどうか。佐々木前監督のときからチームに残るMF宇津木瑠美(28)は高倉監督の印象をこう話す。
「やはり女性監督ということで、妥協が少ないというか、すごく細かいところにも目が届く厳しさはあると思います。とくにピッチ外では歩き方ひとつとってもちゃんと手を振ってシャキシャキ歩きなさいとか言われたり(笑)。もちろん、それは自分たちに至らない部分があるからなんだとは思いますが……」
また、これまでのキャリアで初めて女性監督の下でプレーすることになった新主将のDF熊谷紗希(26)は、「女性だからどうとか、男性だからどうっていうのはあまりない」と言い、こう続けた。
「監督が代わり選手も代わったので、チームの雰囲気が変わった部分はあります。(女同士ピリピリ?)それはないです。監督とはいい意味でフレンドリーに話せますし、どちらかというと選手主体で、監督と一緒にチームをつくっていくような形になってきたと思います」
記者会見などの受け答えでは、冗談を連発した前任者とは違い、キリッとした表情で負けん気の強さもうかがわせる。
高倉監督は、選手として15歳で日本代表に入り、2度のW杯と1996年アトランタ五輪を経験。指導者としては14年に17歳以下の女子日本代表を率いU-17W杯初優勝、16年には20歳以下の女子日本代表監督としてU-20W杯3位と世代別代表を率い優れた手腕を発揮してきた。
現役時代にそのプレースタイルから“女ラモス”と呼ばれた指揮官は、初の女性監督として注目されるが、満を持して就任したともいえる。
「スピードやパワーといったフィジカル面はまだ足りないが、日本人の技術や組織力は世界でもトップクラス。選手の個性を発揮しながら、本気で上を目指す集団となり、また強いなでしこジャパンをつくっていきたい」(高倉監督)
高倉監督は、なでしこジャパンを再び常勝軍団へと導けるか。(スポーツジャーナリスト・栗原正夫)
※AERA 2017年4月24日号
AERA
2017/04/19 16:00