
「私は女の子が好きだから」写真家・珠かな子さんが語る「大乱闘スマッシュファミリー」と人生
(撮影/インベカヲリ☆)
写真家として活動する珠かな子さん(36)の家族の物語は、曽祖父の代までさかのぼって始まった。曽祖父は妻と子どもを家から追い出したという。祖父は師匠の娘と結婚したというが……。現代日本に生きる女性たちは、いま、何を考え、感じ、何と向き合っているのか――。インベカヲリ☆さんが出会った女性たちの近況とホンネに迫ります。(※前編から続く)
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セルフネグレクトで死亡
「祖父は、おそらく昔から不倫をしていたんだと思います。祖母は姉さん女房で、人とかかわるのが難しい性格だったみたい。自分が糖尿病になったら『私の面倒は見るな』と言って、祖父を家から追い出してしまったんです」
もっとも、祖父母の家と、両親の住むかな子さんが育った家は、一軒家の連なる長屋だった。祖母は隣に住んでいたが、人から面倒を見られることを最期まで拒否し、ある日ひっそりと亡くなっていたという。
一方の追い出された祖父は、その後すぐに2人の彼女を作り、土日に会う彼女と平日に会う彼女に分けて、家を行き来していたらしい。だが、しばらくすると、自分以外にも女性がいることを知った土日彼女が離れていき、ついで平日彼女も入院した。祖父は、老齢になって一人ぼっちになったのだ。
「そしたら一人じゃ何もできないし、病院も行かない。体調を爆速で悪化させて、本当に1カ月以内に死んだんです」
かな子さんの父が生活に必要な食料を届けるなどしていたが、買ってあげた電子レンジは開封すらされていなかったという。
「私は『セルフネグレクト死亡じじい』って呼んでる。ひ孫も懐いていたのに、そんなことお構いなしで『自分で自分の世話するくらいなら死んだほうがマシ』ってすごいですよね。祖父は自分が大好きな人で、自分の話と昔話しかしないし、家族に対しても、そこそこ愛着はあっても関心はないんですよ。孫である私に対しても、『可愛い』という考えはまずなかったと思う」
「男がすっごい偉そう」
その息子であるかな子さんの父は、元々酒浸りだったが、祖父の死にショックを受けてさらに酒浸りになり、老人性鬱のような状態になったが、やはり病院へは行かなかった。あげく家で大暴れし、一家大乱闘が起こったという。
かな子さんは、笑いながら言う。
「『大乱闘スマッシュファミリー』って呼んでいます。うちの家系は、男がすっごい偉そうなんですよ。『誰が飯食わしてやってると思うんだ』とか『誰の家に住んでるんや』とか『女はバカだ!』とか言って、ふんぞり返って、女を見下していて、そのくせセルフネグレクトで自分のことは何もできない。何を根拠に、あんなに自分が偉いと思えるんだろう」
写真家の珠かな子さん
そうした男性たちを相手にしてきた母は、さぞ大変だったろうと思いきや、かな子さん曰く「ポジティブな不思議ちゃん」だそうで、天然パワーで上手く立ち回っていたらしい。
まさに、昭和の放蕩一家という感じだが、曽祖父、祖父、父を見ていたら、自然と男性に期待をしなくなるということはありえそうだ。
ちゃんと好きだったのは元カノぐらい
そんなかな子さんには、つい1年ほど前まで9歳下の彼女がいたという。私は、男性と付き合っているかな子さんしか知らなかったため、これは初めて聞く話だった。
「ちゃんと好きだったのは、その元カノぐらい。だって、本当に好きだったし、ずっと一緒にいたいし、結婚したいし、他人に取られたくないし、浮気とかされたら死ぬって思っていたから。彼女が海外留学するっていうから、その前にプロポーズしようと思って、2カ月前からリゾートホテルを予約して、フラッシュモブのやり方とか調べて、結婚指輪をどうするかとか考えていたんですよ。めっちゃルンルンしてたけど、だんだん雲行きが怪しくなってきて、結局、別れてしまいました」
元カノにはいろんな思いがあったらしく、2人のエピソードを話し出すと止まらなかった。かな子さんは、どんな結婚生活を思い描いていたのだろう。
「海外旅行とかにたくさん行って、老後はちょっとした田舎に引っ越して、大きな庭のある家に住んで、大きなベッドを買って、彼女と大型犬と寝て、庭でアヒルとかも飼いたいなって思っていました。その前に、まずは2人でウェディングドレスを着て結婚式をしたかったですね」
人生は自分のものだから
聞けば、初恋も女性だという。初めから、女性が好きだったということだ。
「私は、男性だとか女性だとかいうことを特に気にしていなくて、『女の子は可愛いから皆も好きだよね』っていう感覚です。ナチュラルな感情だから、レズである誇りとかも特にないし、『レズっていう言葉は差別だからレズビアンと言うべき』という人がいることもよくわからない。人生は自分のものだから、好きなように生きるのが当たり前だし、自分の好きなものを我慢したり悩んだりする意味がわからないです」
そうキッパリ言うかな子さんに、「好きに生きる」という家系の歴史を感じた。そして、こんなことも言う。
「男性から性的な目で見られる気持ち悪さは、経験上知っているから、自分が女性に対してそうならないよう気を付けようとは思っています」
やはり、かな子さんからは、どこか男性的な視点を感じる。しかし、そんなかな子さんも、子どもを産む前は男性と恋愛をしていた。しかも、その男性たちは「若い彼女がたくさんいるおじさん」という共通点があった。
男の人から「結婚しよう」は無理
「男性との恋愛は、感覚が全然違う。パートナーとか、家族みたいな認識で、相手に彼女ができたと言われると『良かったね~』っていう気持ちになるんです。好きは好きでも、恋ではない。振り返ってみると、これまで一対一の恋愛は絶対に避けていたんですよね。元々、本当に女性が好きだったから、男の人から『結婚しよう』とか言われると無理になるんです」
つまり、「他にも彼女がいる男性」ということも、かな子さんなりの意味があったということだ。
「私は女の子が好きだから、自分が若い女性の立ち位置を楽しむというよりは、若い女性と付き合っている男性側の意識に自分を投影していたんだと思う。女の子を可愛がっている男性を羨ましく思ったりして、自分はそっち側になりたい。だから、周りに女の子がたくさんいる環境が良かった、というのに近い気がする」
そして、ようやく恋が実ったのが、元カノだったということだ。
男の子を育てていくうえで思うこと
その彼女とは半同棲していたらしいが、息子はその状況をどう理解していたのだろう。
「異様に仲のいいママの友達くらいに思っています。だけど、『女の人と家族になっても、男の人と家族になってもいいんだよ』って話もしていて、ふんわりにおわせているので、大きくなったらわかると思います」
早くも多様性を学んでいるということだ。
かな子さんの家庭教育はとても進んでおり、息子は小学生ながらにプライベートゾーンの意識もしっかり身につけていた。クラスの男子が女子の胸を触ったりしているのを見ると、注意する男の子に育っているという。
「男の子を育てていくうえで思うのは、ちゃんと女の子を大事にしろよっていうことですね。息子は、遺伝的なものなのか『強いことがカッコイイ』と思っていて、上手く表現できないながらに女性への関心も幼少期からあるんですよ。女性と接することって、男性にとっては難しいことなんだろうなって思うから、女性に嫌われて悲しむようなことにはなってほしくないですね」
こうして、健全な男子を育てるべく奮闘中なのである。
そして、かな子さんは、女性との恋愛も楽しもうとしている。
「いい恋がしたいです」
ため息をつくように出てきたその言葉に、私は生きる強さを感じた。
(構成・ノンフィクション作家 インベカヲリ☆)