中島晶子
新NISAありがちセールストーク「うまい断り方8選」余計な投信・外貨・保険を避けよ
※写真はイメージ(gettyimages)
一部の銀行や対面証券の窓口に出向くと、あなたの本来の目的「以外」の「おすすめ」をされることがある。銀行員サイドと顧客サイドの両方に取材した。鉄則は「よくわからないモノは買わない」ことだ。AERA 2023年12月4日号より。
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大手地方銀行に30年以上勤める現役銀行員で、金融ライターの加藤隆二さんへの取材や資料をもとに、「一部の銀行や証券会社でありがちなセールストーク」をまとめた。八つある。ここからは、人気投資ブロガーのりんりさんにバトンタッチ。りんりさんは初心者の頃、対面証券や銀行で株式や投資信託を取引していた。地元の付き合いで投資信託の説明を受けることも多かった。八つのセールストークを見せると「全部(金融機関から)言われた経験があります」と苦笑い。それぞれの質問の意図と、初心者の切り返し方を提案してくれた。
◆コア・サテライト戦略という言葉を知っていますか?
「『知っていますか?』と問いかけているのがミソです。イエスかノーで答える質問なので会話を次に進めやすい。ベストの答え方は『知らないですが、今は(聞くのを)やめときます』です」
「サテライト」は、本丸から離れた存在のものを指して使われる。別の投資信託を売りたいときに便利な言葉だという。
「サテライトとして別の投資信託を追加した場合のリターン例を資料として見せられるかもしれません。その資料の中身は売り手が持っていきたい方向にコントロールできます。新NISAはコア(核となる投資信託)だけでOK。一番効率がよく合理的だからコアなんです。サテライトは必須ではありません」
◆別の投資信託を組み合わせることで値動きが安定しますよ
「このセールスには『リスクは預貯金の額で調整しますので、別の投資信託は買わないです』と答えましょう」
複数のリスク資産を組み合わせるより、現金とリスク資産の割合を調整したほうが簡単で確実だ。リスクを取りたければ投資信託の割合を増やせばいいし、リスクを抑えたければ預貯金の割合を増やせばいい。
◆先進国の安心に、新興国の成長をプラスしてみませんか
「全世界株式の投資信託なら、その中に中国が3~4%、インドは1.5%前後、入っています。この提案には『全世界株式に中国やインドが少し入っていると聞きましたので様子を見ます』が無難です」
AERA 2023年12月4日号より
◆分散投資の一環として株式のインデックス型投資信託以外のものも組み合わせてみませんか
「『分散投資の一環』も、セールス的に便利そうな言葉ですよね(笑)。『全世界株式で分散できていると思うので、とりあえず1本でいいです』と答えましょう。債券が……不動産が……と言われたら、先ほどの『預金の量で調節します』でOK」
◆物価が値上がりしていますね。インフレに備えてリート(不動産投資信託)も悪くないですよ
「全世界株式の投資信託もインフレ対策には十分なります。リートも悪くないですが、どの投資信託を買うか迷うでしょうし、全世界株式と比べてコストは高め。運用をシンプルにするためにも新NISAで無理に買わなくてもよいのかなと思います。答え方は『もう少し勉強して考えます』でいいでしょう」
◆日本はまだまだ低金利ですが、海外の金利はこんなに上がっているので外貨預金いかが
「金利は高くても、為替が円高に動けば金利分は意外に早く飛びます。銀行窓口での外貨預金は為替手数料も高いです。答え方は『今、円安で怖いからやめときます』はどうでしょう」
金利約5%の外貨預金1年もの100万円分、為替手数料片道1円の場合でトータル約1万3500円のコスト。1ドル=約150円のときに預けて144円台まで円高が進むと、5%の金利が飛び元本割れとなる。
◆海外資産での運用に保険がセットになった商品があります
「保険と運用は別で考えたいですね。変額保険や外貨建て保険は、保険部分のコストと運用部分のコストが不透明です。答え方は『投資と保険は別にしたいかも……必要な保険には加入済みです』がマイルドかと」
◆リタイア後は、運用しながら取り崩していきましょう。毎月、分配金が出る投資信託がシニア世代に大人気なんです
「新NISAで毎月分配型は買えませんから、別ですすめられるパターン。答え方は『毎月分配型で信託報酬0.2%以下のものはないですよね。高いのでやめておきます』。これで話を終えられる気がします」
最後に、お客の立場からの体験談を。億超えの資産を持つ桶井道さんは都市銀行や地銀・信託・信金、ネット銀行・証券まで金融機関をフル利用している。
「メガバンクはコンプライアンス(法令順守)に敏感になってきたと感じています。特に三井住友銀行は現場の意識改革が進んでいると評価しています。少し前、『定期預金は金利が低いから』と、日本の国債をすすめられました。うれしかった」
付き合いから地銀でつみたてNISAをしていたが、新NISAはネット証券でやることにした。その手続きで地銀の窓口に行くと、「つみたてNISAは10月で終えます」という書面への署名を求められた。
「新NISAから金融機関を変えても、つみたてNISAは12月まで地銀で続けられるはずなのに『12月まで積み立てを続けたいなら、改めて12月に来店を』と。新NISAでの手続きを失敗したくなかったので、あきらめてサインしました」
信託銀行、信用金庫は丁寧な対応だが、紹介される投資信託の信託報酬は高いものが多い。
「対面証券では野村証券も利用しています。情報提供をしてくれますが、無理な勧誘はなく、平和です。こういう方もいるんだな、と。結局はメガバンクがOKで地銀はダメとか対面証券がどうとかいう話ではなく『いい人に出会えるかどうか』が鍵かもしれません」
(経済ジャーナリスト・向井翔太、編集部・中島晶子)
※AERA 2023年12月4日号より抜粋
AERA
2023/12/03 10:30