前出のマイさんは、「たくさんやらかしてきましたね~」と振り返る。“いい子”であるがゆえに、人間関係で何度もつまづいてきたそうだ。

「嫌われたくない、という気持ちが先に立っちゃうんですよ。中高生のときは仲よくしたいクラスメイトがいると、その子がほしがっていたキャラクターグッズをあげたり、トイレに行きたいわけでもないのについていったり、尽くしちゃう。その子と仲がいい、別の子の悪口を吹き込んだこともあります。私自身が言ったって思われたくないから、『隣のクラスの子から聞いたんだけどね』って作り話までしていました」

 小学校のとき、親から「あの子と遊んではいけない」と言われることがたびたびあった。仲よくなってはいけないことばかり意識してきたマイさんには、誰かと仲よくする方法がわからなかった。

「親の言いつけを守って、成績もある程度よいと、両親とも褒めてはくれないにしても家のなかに居場所があった。でも、友だちには尽くしても報われない。私が悪く言った子のことを『あの子、そんなに悪い子じゃないよ』と言って、私から離れていってしまうんです」

 ミフユさんは、常に空気を読み、一緒にいる友人たちにもそれを求めた。

「最初は笑いながら『空気読もうよ~』と軽い感じでいうのですが、友だちは気にもしていない様子。そうなると私はいらいらしちゃって、最後には『空気読んでよ!』と強く言っちゃうんです」

 親の顔色をうかがい、親が作り出す場の空気を読み、子どもが気を遣う。ミフユさんの育った家庭ではそれが正解だった。それなのに、同じことをしても、家の外で出会う人たちとは噛み合わなかった。

「いまでも友人や恋人から『気を遣いすぎ』といわれるんです。でも、私には気を遣わないというのがどういう状態なのかわからない。『本音でしゃべってよ』とくり返しいわれるので、しょうがないから本心を伝えると、今度はキツすぎるといわれる……加減ができないんですよ。私の本音で相手を傷つけることがあるのなら、やっぱり出さないほうがいい、常に気を遣うようにしなきゃ。そんなことをずっとつづけているうちに、自分の本音がわからなくなってしまった気がします」

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「人生で一番刺さった小説」